名古屋市立大学(名市大)、生理学研究所(生理研)、同志社大学の3者は2月2日、傷害を受けたマウスの脳を再生させるバイオマテリアル(足場となる人工物)を開発したことを共同で発表した。

同成果は、名市大大学院 医学研究科 脳神経科学研究所の澤本和延教授(生理研 兼任)、同・大野雄也大学院生、同・中嶋智佳子特任助教、同志社大 脳科学研究科の金子奈穂子教授を中心に、東京医科歯科大学、東京農工大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Biomaterials」に掲載された。

脳梗塞などの傷害が起こると、新生ニューロンが傷害部位へ移動して再生に寄与するが、自然に任せていたのでは神経機能は十分に回復しない。研究チームはこれまでの神経再生に関する研究で、新生ニューロンの移動を促進することで機能を回復することを発見。このことから、足場となって新生ニューロンの移動をサポートするバイオマテリアルが、回復の鍵であることがわかったのである。

バイオマテリアルは、生体内で足場として機能している細胞の性質や形を模倣するように設計されることが一般的だ。研究チームはこれまで、新生仔マウスの脳表面の傷害に対して、新生ニューロンの移動に関わる細胞接着分子である「Nカドヘリン」の細胞外領域を含んだスポンジ状のマテリアルの移植が、新生ニューロンの移動、および機能回復を促進させるという事実を発見済みだ。

しかし、固形のマテリアルでは、脳を傷つけずにその深部へと移植することができない点が課題となっていた。そのため、さまざまな脳疾患の治療に臨床応用できる、移植しやすい形状が求められていたのである。

ところが、バイオマテリアルに大きな分子を組み込むことは技術的に困難だという。過去にも細胞接着分子の一部を組み込んだバイオマテリアルの設計は報告されているが、一部のみでは接着分子としての機能が不十分な可能性が示唆されていた。

そこで研究チームは今回、注入後に自己集合しゲル化するバイオマテリアル「(RADA)3-(RADG)」(以下「mRADA」)と、細胞接着分子Nカドヘリンの細胞外領域を組み込んだ「Ncad-mRADA」を開発し、同バイオマテリアルをマウスに用いて実験することにしたという。