東北大学、慶應義塾大学(慶大)、東京農工大学(農工大)、名古屋工業大学(名工大)の4者は1月30日、マグネシウム二次電池の正極材料として、マグネシウムとアルミニウムからなる酸化物の天然鉱物「スピネル」型のマグネシウムマンガン系酸化物(MgMn2O4)に対してナノ粒子化と多孔質化を行い、粒子サイズ2.5nm以下、比表面積500m2/g以上の超多孔質極小ナノスピネルの合成に成功し、理論容量270mAh/gという同二次電池の高エネルギー動作が室温で可能となったことを確認したと共同で発表した。

同成果は、東北大 多元物質科学研究所の小林弘明講師、同・本間格教授、東北大 金属材料研究所の市坪哲教授、農工大の富永洋一教授、物質・材料研究機構の万代俊彦主任研究員、名工大大学院 工学研究科の中山将伸教授、慶大の今井宏明教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

リチウムイオン電池(LIB)には、リチウムのほかにもコバルトやニッケルなどのレアメタルが使用されている。今後、ハイブリッド車や電気自動車といった電動車の増産により、LIBの需要が世界規模でさらに拡大するのは明白である中で、金属資源の枯渇問題、世界情勢の変動による価格の高騰など、サプライチェーンリスクが増大している。そのようなレアメタルの資源的制約とサプライチェーンリスクを回避し、さらに産業競争力の向上を目指すためにも、レアメタルフリーな金属資源を用いた次世代二次電池、いわゆる「ポストLIB」の開発が求められている。

このような背景の下、リチウムの代わりとして期待されている資源の1つがマグネシウムだ。マグネシウムは、埋蔵量が豊富なことから低コスト化が期待される上、安全性の観点からエネルギー密度の小さな炭素材料を負極に用いる必要があるLIBに比べ、マグネシウムの場合は安全性が高いことから、金属マグネシウムを直接負極に用いることが可能という優れた点も存在する。これにより大幅な体積エネルギー密度の増大が期待できるとのことで、マグネシウムを用いた二次電池なら、低コスト・高い安全性・高いエネルギー密度の三拍子が実現できる可能性があるのだ。

マグネシウム二次電池の正極材料としては、これまで硫化物材料が開発されてきたが、硫化物正極は動作電圧が小さいためにエネルギー密度が小さいという課題があった。現行LIBのエネルギー密度を超えるためには、高電圧動作が可能な酸化物材料を用いる必要がある。しかしマグネシウムイオンは酸化物イオンとの親和性が強く、高速にマグネシウムを出し入れ可能な酸化物正極材料は見つかっていなかったという。そこで研究チームは今回、スピネルに着目し、その正極材としての応用と性能向上を目指すことにしたとする。