具体的には、ビスマス、アンチモン、テルルからなる非磁性のトポロジカル絶縁体「(Bi,Sb)2Te3」を、磁性元素のクロムとバナジウムを添加した磁性トポロジカル絶縁体「(Cr,Bi,Sb)2Te3」および「(V,Bi,Sb)2Te3」で挟んだ積層構造の試料が作製された。

これらの試料は、極低温まで冷却すると磁性層の磁化が膜面に垂直方向にそろい、試料端以外の部分は電流を流せない「量子異常ホール絶縁体」と呼ばれる状態になる。量子異常ホール絶縁体では、通常の板状の試料の場合には、板の側面に沿った一方向にのみ流れるキラル端電流が発生する。このキラル端電流は、ホール抵抗が、量子抵抗h/e2と等しくなる量子異常ホール効果をもたらすという。

しかし、今回の研究の目的であるラフリン電荷ポンプの観測には、キラル端電流の存在が妨げになってしまうことが課題とされていたことから、今回の研究では、電極間をつなぐ側面が存在しない円盤状の試料を作製。そして、同試料の鉛直方向に磁場が加えられ、試料に流れる電流の測定が行われたところ、磁場の振動的な変化に対応して、試料につないだコンデンサの電圧が振動的に変化する様子が観測されたという。

  • 電荷ポンプ測定に用いられた磁性トポロジカル絶縁体積層薄膜試料

    電荷ポンプ測定に用いられた磁性トポロジカル絶縁体積層薄膜試料。(左)作製された磁性トポロジカル絶縁体薄膜の積層構造。(右)測定に用いられた円盤状試料 (出所:東大プレスリリースPDF)

さらに、磁場振幅の大きさを変えて実験が行われたところ、電荷ポンプによって運ばれた電荷量と磁場振幅の大きさが比例していることが判明。この比例係数は、試料の形状効果を補正すると、ラフリン電荷ポンプで理論的に予測されている係数e2/hと一致しており、今回の研究で観測された現象がラフリン電荷ポンプであることが示されていると研究チームでは説明する。

また、外部静磁場を加えてクロムを添加した磁性層とバナジウムを添加した磁性層の磁化方向を反対向きにそろえると、電荷ポンプがゼロになることも確認。この結果は、磁化が反対向きの場合には、試料の上表面、下表面の電荷ポンプが互いに相殺していることを示唆しているという。

なお、研究チームでは、今回のラフリン電荷ポンプの実現は、物質のトポロジカルな性質を応用した新しいタイプの電流源の動作原理を実証したことになるとしており、今後、磁場の基本単位である磁束量子を1つずつ制御できる超伝導量子干渉デバイスと組み合わせることができれば、電子を1個ずつ運ぶ量子レベルの精密電流源の創出へと発展できる可能性があるとしているほか、今回の研究成果は、物質のトポロジーを電子デバイスに応用することが有用であることを示すものでもあり、トポロジカル物質を応用した電子デバイスの研究が発展することが期待できるとしている。