東京工業大学(東工大)などは6月2日、トポロジカル絶縁体の表面近傍に規則的な強磁性層を埋め込むことに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学理学院物理学系 平原徹准教授、東京大学物性研究所 白澤徹郎助教(研究当時、現在は産業技術総合研究所主任研究員)、同大大学院理学系研究科 長谷川修司教授、分子科学研究所 田中清尚准教授、木村真一准教授(研究当時、現在は大阪大学教授)、横山利彦教授、広島大学放射光科学研究センター 奥田太一教授らの研究グループによるもので、5月26日付けの米国科学誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された。

トポロジカル絶縁体とは、物質内部は絶縁体で電流を通さないが、表面には金属状態が存在し、電流を流すことのできる新しい絶縁体。その表面状態はトポロジーによって保護された、質量のないスピン偏極ディラック電子になっている。トポロジカル絶縁体に強磁性の性質を導入すると、金属的であった表面状態にギャップが開き、質量のあるスピン偏極ディラック電子へと変化する。これは新たなトポロジカル相であり、電子の輸送特性を測定すると量子異常ホール効果が観測される。

これまで強磁性トポロジカル絶縁体は、トポロジカル絶縁体を成長させる際に磁性不純物を無秩序に添加する方法で作製されてきたが、試料の不均一性によりディラックコーンのギャップが不均一で小さくなり、また強磁性の性質を示す温度は室温以下に限られるという課題がある。実際に量子異常ホール効果が観測される温度は最高でも-271℃と非常に低い温度にとどまっていた。

今回、同研究グループは、トポロジカル絶縁体であるBi2Se3薄膜上にさらにSeと磁性元素Mnを蒸着するという実験を行った。電子回折を用いた構造解析の結果、上に付けたはずのMとSeがBi2Se3の表面近傍に潜り込み、MnBi2Se4/Bi2Se3という秩序だったヘテロ構造が形成されることがわかった。さらに、電気的および磁化特性測定によりこの物質が室温でも強磁性状態であることが明らかになった。これらの結果は第一原理計算によっても支持されている。

同研究グループは、今回実現したヘテロ構造を用いることで、これまで-271℃までしか実現されていない量子異常ホール効果をより高温で実現できる可能性があると説明している。

構造解析によって決定されたヘテロ構造の原子構造(a)およびその表面ディラック電子のバンド構造(b) (出所:東大物性研Webサイト)