SiFive Japanは12月26日、同社の創業者兼Chief Architectであり、RISC-V Internationalの取締役会長でもあるKrste Asanovic教授を招いての記者説明会を行った(Photo01)。

  • Asanovic教授

    Photo01:右がAsanovic教授、左はSiFive Japan社長のSam Rogan氏。とりあえずSam Rogan氏の幅と厚みは変わっていなかった

7月に日本法人設立を発表した際にはまだオフィスの所在地も確定していなかったが、10月に東京都港区の世界貿易ビル南館を拠点と定めたこともあり、今回の記者説明会はそのオフィスのお披露目も兼ねたものとなっている。

現在は社員数5人と超少数精鋭状態であるが、このあたりは今後拡充されてゆく事になるのだろう。ちなみに米国本社の方は社員数が750人を超え、すでに創業のSan Mateoではオフィスが足りなくなったとの事で、現在は本社の拠点をSanta Claraに移したそうだ(位置的にはIntelとNVIDIAの丁度中間あたりになる)(Photo02)。

  • この数字はやや古いもの

    Photo02:この数字はやや古いものである。あと企業価値の25億ドル以上というのは、ファンドからの投資額に基づくものである(昨年IntelがSiFiveを買収しようとした時は20億ドルほどだった)

同社は基本的にIP Companyであって、なので基本的には直接Siliconを納入するのではなく、半導体メーカー経由でエンドユーザーに供給する事になる。なのでどれだけ多様多種なProcessor IPを提供できるかが最初の切っ掛けになる訳だが、まずマイコンなどに向けたEssential Seriesをはじめに、より高性能なPerformance SeriesとVector ProcessorをベースにしたIntelligence Series、それと最近はAutomotive向けもラインナップに追加されている(Photo03)。

  • Automotive向けの概要

    Photo03:Automotive向けは、コアそのものは既存の製品そのままであるが、ISO26262に要求されるAutomotive Gradeでの動作をサポートするFeature(例えばASIL-DならLockstep動作)に加え、膨大な量のDocumentやサポートの提供が主な相違点となる

まぁこの自動車向けに関して言えば、日本ではすでにルネサス エレクトロニクスとの協業が発表されており、現在はこれをサポートするという形がとりあえずの動きになる(Photo04)。

  • ルネサスとSiFiveが2021年4月に提携

    Photo04:これは昨年4月に発表された話。次世代製品の開発に加えて、現在のIP Portfolioの供給も契約に含まれている

またウェアラブルデバイス向けにQualcommやSamsungがSiFiveのコアを選ぶ(Photo05)といった発表もあるなど、着実に普及に弾みが掛かっている。

  • P670とP470の発表

    Photo05:これは同社のP670とP470の発表の際にQualcommとSamsungがメッセージを寄せている事からも明らか

加えてIFS(Intel Foundry Services)はSiFiveのP550をベースにしたSoC(Horse Creek)の製造を契約しており、2023年に開発者の元に届けられる、としている。

余談だがこのHorse Creekを搭載した「HiFive Pro P550ボード」は、同社が2020年11月に発表した「HiFive Unmatched」の後継製品にあたる。すでにHiFive Unmatchedは生産終了しており、製品ページには「Intel製のHorse Creekベースのボードに乗り換えろ」とまで案内があるので、「ぶっちゃけ2023年のいつ、開発者は入手できるの?」とAsanovic教授に尋ねたのだが、答えは「正直、正確な時期は判らない。COVID-19の影響で特にPMIC周りのチップの入手性が極端に悪くなっている。P550ボードも、(代替PMICに切り替えるために)2回も設計変更した。Horse Creekそのものの量産時期はIntelに聞いてほしい」という話で、正確な時期はまだ不明なままだそうだ。

  • Intelは2022年10月のIntel Innovation 2022でこのHorse Creekの詳細を公開

    Photo06:Intelは2022年10月のIntel Innovation 2022でこのHorse Creekの詳細を公開しており、12月のRISC-V Summitでは写真にあるように開発ボードのデモも行われた

ついでに言えば、元々RISC-Vという命令セット自身が、Asanovic教授の研究プロジェクトの中で必要と言うことから生み出された事もあって、大学での教育の教材としてRISC-Vを利用する事にも非常に熱心であり、すでにアメリカやインドなどいくつかの地域では、広範に教材としてRISC-Vが利用されている。この流れを日本でも起こす事にAsanovic教授も非常に関心を持っているとされたが、現時点ではまだ具体的なアクションは特に起こしていないとの事で、今後に期待したい。

またRISC-V InternationalのChairman of Boardの立場としては、RISC-Vのエコシステムが極めて健全に、しかも急成長している事に満足すると共に、より広範な普及に向けての取り組みも活発に行われている。この話は今年12月のRISC-V Summitで公開された話でもあるのだが、1つ例としてAsanovic教授が取り上げたのがApplication Profileである(Photo07)。

  • 2023年中にRVA23が登場の予定

    Photo07:RVA20が今はデファクトで、RVA22は余り使われていない模様。2023年中にRVA23が登場の予定らしい

今年の10月22日にVersion 0.8がReleaseされたが、要するにアプリケーションプロセッサ向けに必要となる命令セットを定めたもので、特権モードを持たない汎用の「RVI20」と、特権モードを持つ(Linuxの様な)リッチOSを対象としたものが「RVA20/22」であり、現在「RVA23」が策定作業中となっている。これらを利用する事で、OSやミドルウェアの移植をより容易にしよう、というものである。

ちなみにRISC-V Internationalではこれに加え、さまざまなTG(Technical Group)やSIG(Special Interest Group)を結成して、もう少し上位の標準化も行われている。例えばPlatform HSC(Horizontal Steering Committee)の傘下でConfiguration TGとHypervisor SIGが結成されて活動中であり、他にOS-A Platform/RVM-CSI/OS-A SEE/OS-A PCTといったTGの結成を予定しているほか、さらにいくつかのTGを立ち上げる予定とされている。

まだArmのSystemReadyに比べるのは酷ではあるが、方向性としては同じところを向いている。なによりこれが、立ち上がって5年かそこらのエコシステムというのが大きなポイントであり、今後もこうした形でエコシステムの拡充に向けて努力してゆく(のでみんなRISC-Vを使ってもらいたい)、というのがAsanovic教授のメッセージであった。