ispaceは12月1日、同日に予定されていた月面ランダーの打ち上げを延期したと発表した。延期の理由は、ロケット側の問題。ランダー側には何も問題は無かったが、ロケット側で追加点検作業が発生したとのことで、射点に出ていたFalcon 9ロケットは一旦ハンガーに戻すという。新たな打ち上げ日時は未定。

  • 射点で打ち上げを待っていたFalcon 9ロケット

    射点で打ち上げを待っていたFalcon 9ロケット。汚れ具合からして再使用の機体だろう (C)SpaceX

この打ち上げは、ロケット側の問題により、すでに一度、 11月30日から12月1日へと延期されていた。どのような問題が発生したのか、詳細は不明。今回のミッションは月探査ということで、SpaceXとしてもあまり経験のない軌道への打ち上げとなるが、ispaceの氏家亮CTOによれば、「我々の要求は技術的に特段ハードルが高いものではない」という。

気になるのは、どのくらい延期されるのか、ということであるが、これについても情報は何も無い。ただ、ロケットが射点からハンガーに戻されるため、現実的な問題として、少なくとも数日はかかるものと見られる。

  • 氏家亮CTO

    同日に開催されたオンライン会見で説明するispaceの氏家亮CTO

「日本初」や「民間初」といった観点からは、月面着陸の時期への影響も気になるところだ。同社の計画では、もともと月面着陸は4月末に行う予定だったが、打ち上げが延期になっても、12月中旬までであれば、このスケジュールに影響は無いという。

ispaceのミッション1ランダーは、ダイレクトに月には向かわない。月は地球から約38万km離れているが、これを通り越し、1カ月ほどをかけて、高度150万kmほどの遠地点に到達。そこから数カ月かけて戻ってきて、月に会合するという軌道を取る。これは、燃料の消費量を最小にして、その分、多くの荷物を搭載するためだ。

  • ミッション1の軌道

    ミッション1の軌道。時間はかかるものの、燃料は少なくて済む (C)ispace

氏家CTOによれば、12月中旬までの打ち上げであれば、燃料の消費量は少し変わるものの、途中の航行日数が短縮されるだけで、月に会合する時期は変わらないという。月周回軌道へ投入後のスケジュールにはまったく影響がなく、予定通り4月末に着陸できるというわけだ。

ただ、12月中旬を過ぎれば直ちに着陸時期が変わるというわけではないものの、どこかで断念して遅らせるタイミングは出てくる。この場合、留意したいのは、月にはいつでも着陸できるというわけではないことだ。

月の“1日”は非常に長い。月の表面にいると、昼と夜がそれぞれ2週間も続く。夜は当然ながら、太陽光による発電ができない。極寒の夜を乗り切るためにはヒーターとバッテリが欠かせないのだが、それだとランダーが大型化してしまうので、ispaceのミッション1ランダーは、昼のみ活動する設計になっている。

月面でのミッション期間をなるべく長く確保するには、月面における“朝”に着陸する必要がある。もし4月末の着陸を断念すれば、その次のチャンスは、着陸地点が再び“朝”になるタイミング、つまり4週間ほど待つ必要があるだろう。

しかし、ispaceは月面に到達するまで、もう12年も待ったのだ。あと数日でも数カ月でも、確実に成功するためであれば、いくらでも待てるだろう。ロケット側の問題で待たされるのは少し焦れったいが、SpaceXには、確実な打ち上げを期待したい。

ところでispaceのミッション1であるが、今回、着陸地点が以前の「Lacus Somniorum」(夢の湖)から、バックアップ候補だった「Mare Frigoris」(氷の海)に変更になっている。直径87kmのAtlasクレーターの中に着陸するとのことで、クレーター内部からどんな画像が送られてくるのか、こちらも楽しみなところだ。

  • 米国のLRO探査機が撮影したAtlasクレーターの画像

    米国のLRO探査機が撮影したAtlasクレーターの画像 (C)NASA/GSFC/Arizona State University