具体的には、九大のスーパーコンピュータ「ITO(イト)」を用いた原子シミュレーションの実施により、Tナノ粒子が水素を引き付けやすいことが発見された。Tナノ粒子は、実用化されているアルミニウムにはこれまで利用されていないが、元々材料中に含まれるアルミニウムがηナノ粒子に加わったもので、一般にその生成には特殊な元素を必要としないという。

また、アルミニウム合金中の水素濃度を極限的に高めた上で、大型放射光施設SPring-8における4D観察で、従来の高強度アルミニウム(LT材)とTナノ粒子を含むアルミニウム(HT材)を対象とし、Tナノ粒子のある/なしでの水素脆化挙動が調べられた。両者は同程度水素を含んでいるが、一部をTナノ粒子に切り替えることで、水素脆化が強力に抑えられていることが明らかにされたという。

さらに、SPring-8のX線CTによる亀裂の拡大挙動の4D観察の結果、たとえ水素脆化による亀裂が発生したとしても、その進行は、Tナノ粒子により強力に抑止されることも確かめられた。

加えて、原子シミュレーションとSPring-8の4D観察の結果を組み合わせ、Tナノ粒子の効果についての定量的な分析が行われたところ、Tナノ粒子を導入することで、水素脆化の原因となるηナノ粒子に引き付けられる水素量が約1/1000(LT材の場合の0.11%)に減少することも判明したとする。これは、ηナノ粒子がその表面のみで二次元的に水素を吸収するのに対し、Tナノ粒子は粒子内部全体が三次元的に水素を吸収するため、大きな水素吸収効果を有するためであり、ηナノ粒子とTナノ粒子を同じ割合にした場合(HT材)でも、Tナノ粒子が引き付ける水素は、ηナノ粒子の約15倍と多くなったとする。

  • 原子レベルで観察したもの

    (左)従来のLT材と、Tナノ粒子含有のHT材を対象に、ナノ粒子を電子顕微鏡(a~e)や三次元アトムプローブ法(g~i)を用い、原子レベルで観察したもの。原子レベルシミュレーションのモデルと計算結果を合わせたもの(f)。(右)4D観察技法で観察した高強度アルミニウムの水素脆化挙動。従来のLT材と今回のHT材の比較。引張試験時の応力と歪みの関係(a)、水素量の分析(b)、亀裂(黄色)進展の様子の比較(d~m)、それらから計測した亀裂拡大の速度の比較(c) (出所:九大プレスリリースPDF)

実際に研究室において、さまざまな試作が行われた結果、現行のアルミニウムでも熱処理の温度を若干高めるだけでも、Tナノ粒子が生成されることが判明したほか、さらに多くのTナノ粒子を生成させたいときには、マグネシウム濃度を少し高めるか、銅などを少量添加すると良いこともわかったという。

マグネシウムと銅は、多くのアルミニウム合金にすでに添加されている元素であり、上述した処理は、コスト的にも装置的にも容易に実現できるものだと研究チームでは説明しており、今回開発されたアルミニウムは、工業的にも生産しやすいとしている。

なお、今回の技術は、アルミニウムの信頼性を長期間にわたって保証するのに有効で、高強度アルミニウムのさらなる高強度化をも可能にするという。今後も、自動車、鉄道、航空機などのモビリティにおいて、軽量化は求められ続けることから、その重要な手段になることが期待されるとしている。