九州大学(九大)、岩手大学、京都大学(京大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)、科学技術振興機構の5者は11月21日、原子レベルのシミュレーションを行い、これまで実用化されていなかったナノ粒子「T相(Tナノ粒子)」がその内部に水素を強力かつ大量に吸蔵できることを発見したと発表した。

また、現行アルミニウムの強化用ナノ粒子である「η(イータ)」の一部をTナノ粒子に置換することで、水素脆化などを有効に防止でき、これにより、アルミニウムの強度や靱性などを犠牲にすることなしに、水素によって脆化しない高強度アルミニウムを創成することに成功したことも併せて発表された。

同成果は、九大大学院 工学研究院 機械工学部門の戸田裕之主幹教授、同・藤原比呂助教、同・ワン・ヤフェイ特任助教、同・シャーマ・ブペンドラ特任助教、同・シー・ユアンタオ特任助教、岩手大 理工学部 物理・材料理工学科の清水一行助教、京大大学院 工学研究科 材料工学専攻の平山恭介助教、JASRI 散乱・イメージング推進室 顕微・動的画像計測チームの竹内晃久主幹研究員、同・上椙真之主幹研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

アルミニウムの強度は添加する亜鉛量を増やせば向上するが、代わりに水素脆化や応力腐食割れが生じてしまうため、ここ100年でアルミニウム合金の強度はあまり向上できていない。アルミニウムから水素を除去できるのが望ましいが、固体の同金属は多量の水素を含んでおり、なおかつその表面には強固な酸化物膜があるため、それも困難とされていた。

そうした中、研究チームは、超々ジュラルミンなどの高強度アルミニウムに含まれるηナノ粒子が、水素により自発的に破壊するという特異な損傷挙動を示し、それが高強度アルミニウムの水素脆化などを引き起こしていることを発見。そこで、同粒子に代わるナノ粒子でアルミニウムを強化する方法を探索することにしたという。