物質・材料研究機構(NIMS)は11月18日、18.5GPa(18万5000気圧)という高い圧力を加えることで、酸化銅が室温で磁性と強誘電性を併せ持つ「マルチフェロイクス材料」となることを実証したと発表した。

同成果は、NIMS 先端材料解析研究拠点の寺田典樹主幹研究員、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のイゴール・ソロビヨフ主幹研究員、NIMS 機能性材料研究拠点の名嘉節主席研究員に加え、英・ラザフォード・アップルトン研究所、英・オックスフォード大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

マルチフェロイクス材料は、機能発現温度が極めて低いことがデバイスへの応用の障壁となっていたが、2012年、フランスの理論物理学者ロックフェルトらが、酸化銅を加圧(静水圧)すると、その機能発現温度が室温まで上昇することを密度汎関数法による理論計算により予測していた。

同理論は、室温で機能するマルチフェロイクス物質の可能性を示唆する重要な仮説であり、実験的検証が求められていた。しかし、理論が予測する機能発現に必要な圧力が40GPa(40万気圧)と極めて高く、この高圧下でマルチフェロイクス状態を観測する方法がなかったため、これまで検証することができていなかった。

そこで研究チームは今回、高圧力下でも微小なスピンを観測できる新しい高圧発生装置を用いた中性子回折実験により、酸化銅のマルチフェロイクス機能発現温度が加圧によって室温まで上昇するという理論予測を実証することにしたという。

酸化銅では、大気圧下の絶対温度230K(-43℃)以下の温度で、銅イオンのスピンがらせん状に配列していることが確認されている。この特殊な配列は、負電荷の中心(酸化物イオン)と正電荷の中心(銅イオン)の相対的な位置の変化をもたらし、物質中に電荷の偏り(強誘電分極)を作り出し、それがマルチフェロイクス機能の起源となっている。

40万気圧をかければ、室温でも酸化銅のマルチフェロイクス機能が発現することを実証するためには、スピン配列を直接観測する中性子回折の手法を用いる必要があった。しかし、酸化銅の銅イオン1個あたりのスピンは約0.3電子程度と、従来のマルチフェロイクス材料(3電子程度)に比べて極めて小さいため、通常の実験装置ではスピン配列の観測が困難だったという。さらに、理論的な予測を検証するためには、精密な温度制御も必要だった。

そこで今回の研究では、英国のパルス中性子施設「ISIS」において、微小スピンの配列を高圧かつ精密な温度制御下で観測するために必要な高圧発生装置を開発。同装置は、焼結ダイヤモンドを部材として使用しており、中性子回折実験では最高クラスの18.5GPaまでの圧力を発生させることが可能だという。