さらに、類似の高圧発生装置中ではかなり大きな1立方mm程度の試料体積を持つため、微小スピンでもその配列を観測することができる。それに加え、酸化銅のスピン配列が現れる温度を精密に測定するため、不凍液(水とグリセリンの混合物)を冷媒とする冷却システムも新たに開発された。

そして中性子回折実験が実施された結果、18.5GPaで室温の295K(22℃)に到達したという。これにより、ロックフェルトらの予測が世界で初めて実証された。

しかし、理論予測の40GPaよりも遥かに低い値だったことから、ロックフェルトらが以前に行った計算手法と比較してほとんど仮定を含まない、密度汎関数法に超交換相互作用の理論を組み合わせたNIMS独自の計算手法を用いて、実験結果を説明する理論モデルの構築を試みることにしたという。

この独自の計算手法は従来法とは異なり、超交換相互作用を持つ銅イオンの組みを特定せずに、すべての銅イオンの組みが等価であるとする。その結果、18.5GPaの高圧下では、超交換相互作用の強さが大気圧に比べて約50%増加することが示された。さらに、合計11種類の超交換相互作用の強さを定量的に決定することで、実験結果を再現し、室温マルチフェロイクス材料の理論モデルが確立された。

  • 加圧が、銅イオン間の磁気的相互作用を強化し、室温でマルチフェロイクス相を安定化させる

    (a)加圧が、銅イオン間の磁気的相互作用を強化し、室温でマルチフェロイクス相を安定化させる。(b)マルチフェロイクス相のらせん状磁気構造。(c)マルチフェロイクス相のらせん状のスピン配列によって誘起される電気双極子の模式図 (出所:NIMSプレスリリースPDF)

なお、今回測定された18.5GPaという高圧状態では、デバイスへの応用は不可能だが、今回の研究で確立された理論モデルを、結晶の歪みを利用した薄膜の成長に応用することで、将来的には大気圧下でも室温で動作するマルチフェロイクス材料の開発が期待されるとする。

また、近年になって酸化銅のらせん磁性のキラリティを電場で制御することにより、光の偏光を制御できるデバイスとして利用できることが発見された。マルチフェロイクス材料は、この光制御デバイスへの応用も期待されているとしている。