具体的には、羽ばたき能力のある鳥類では、羽ばたき能力のない鳥類に比べて、烏口骨の断面係数強度が有意に大きかったとする。これは、鳥類が翼の力強い羽ばたきによって自身を推進させるためには、十分な強度の烏口骨が必要であることを示しているとする。

  • 体重に対する烏口骨の強度の散布図

    体重(g)に対する烏口骨の強度(mm2)の散布図。左上ほど烏口骨の強度が高く、右下ほど烏口骨の強度が低い (出所:名大プレスリリースPDF)

さらに、鳥類のさまざまな羽ばたき方に合わせて烏口骨の強度も変化することも確認された。たとえば、アホウドリやコンドルのように頻繁に「滑翔」(上昇気流などを利用して羽ばたかずに高度を維持して飛ぶこと)する鳥類は、「羽ばたき飛翔」(鳥が翼を羽ばたかせて飛ぶこと)する鳥類よりも烏口骨の強度が高いことがわかった。

彼らは、胸部骨格や上腕骨の形態により、ほかの鳥類に比べ、羽ばたき筋による力の向きが、より内側に向いている傾向にあるという。この力の向きの変化は、烏口骨にかかる曲げの負荷を増大させるが、そのことが、滑翔する鳥類の烏口骨の強度を高める要因の1つになったことが考えられると研究チームでは説明している。

また、ペンギンやウミガラスのような水中遊泳を行う鳥類の烏口骨は、羽ばたき飛翔する鳥類のそれと同様の強度を示すことも確かめられた。水は空気の約800倍の密度であるため、水中で推進するには、より強い力で羽ばたく必要があるという。

一方で彼らは、遊泳時のみ翼を折りたたんだり、進化でヒレ状の小さな翼を獲得したりすることで、翼にかかる抵抗を減らしているため、体サイズが同じである場合、水中遊泳する鳥類と羽ばたき飛翔する鳥類では、羽ばたく力は結果的に同様であることが予想されるとしている。水中遊泳する鳥類の烏口骨の強度が、羽ばたき飛翔する鳥類と同様になったのは、このことが影響していることが考えられるという。

このように、烏口骨の断面係数は、その鳥類の羽ばたき方がある程度反映されており、これにより、烏口骨の強度が、羽ばたき能力の強力な指標となることが示されたとする。

  • 恐竜から鳥類への胸部骨格の進化の様子

    恐竜から鳥類への胸部骨格の進化の様子 (出所:名大プレスリリースPDF)

なお、今回の研究で得られた指標は、化石鳥類の羽ばたき能力を、より確からしく復元するものとして有効だといえるという。この新しい指標を用いて、進化のどの段階で力強い羽ばたき能力を得ることができたのかを明らかにすることができれば、鳥類の羽ばたき飛翔の真の起源を明らかにすることができると期待されると研究チームでは説明している。

また、コウモリや絶滅したは虫類である翼竜など、ほかの飛翔性の動物にも、羽ばたき運動による筋肉の動きに耐える骨があるはずであり、今回の研究の着眼点は、鳥以外の羽ばたき能力を評価する際にも、有効となるだろうともしている。