福井県立恐竜博物館(FPDM)と長崎市は10月21日、共同調査において、長崎半島西海岸の後期白亜紀(約8000万年前)の三ツ瀬層(みつせそう)から、2015年に公表した2点の歯の化石に続き、新たに大型のティラノサウルス科の肉食恐竜の歯の化石を発見したことを発表した。

長崎半島西海岸の三ツ瀬層から複数の脊椎動物化石が収集され、2021年度までFPDMにおいて化石クリーニングと修復作業が行われていた。今回公開された新たな歯の化石は2019年4月に発掘されたもので、化石のクリーニングと鑑定が最近になって完了したという。三ツ瀬層からは複数の獣脚類(肉食恐竜)の歯が発見されており、過去の化石と比較して、ティラノサウルス科の大型種の追加標本であることが判明したとする。

今回の化石は脱落した歯の化石で、その中央部に圧密による変形(ズレ)がある。歯冠のすべてと歯根が一部保存されているなど、全体的に保存状態は良好だという。先端から歯根までの高さ(長さ)は85mm、歯の基部(根元)の幅は33mm、厚さ18mmとしている。

  • 新たなティラノサウルス科の歯の化石

    (左)新たなティラノサウルス科の歯の化石。左は外側、右は内側。歯の高さ(長さ)84mm×幅33mm (出所:長崎市恐竜博物館・福井県立恐竜博物館)。(右)左と中央が2015年公表の化石2点と、右が新たな歯の化石 (出所:長崎市恐竜博物館・福井県立恐竜博物館)

2015年7月に、三ツ瀬層から発見されたティラノサウルス科の大型種の歯の化石2点が公表されているが、それら先行の歯の化石と同じ産地から今回の化石も発見されたという。先行の化石よりやや薄くて小さいが、横断面は同様なふくらみのある楕円形で、その大きさと産出時代から同科の大型種のものと思われるとしているほか、先端部から基部へと向かう鋸歯列の方向や、歯の先端付近の摩耗の方向などから、右下顎の歯と推定された。

ティラノサウルス科は、後期白亜紀の後半(約8300万年前~約6600万年前)に現れた獣脚類の進歩的なグループで、北米とアジア(主にモンゴルと中国)に化石記録がある。同科の大型種としては、北米のティラノサウルスやダスプレトサウルス、アジアではタルボサウルス、ズケンティラヌスなどが知られている。今回の化石はそのような大型種が、現在の長崎市にあたる土地にいたことを示す追加資料となると研究チームでは説明している。

国内では、ティラノサウルス科よりも原始的で、比較的小さなティラノサウルス上科のより古い化石(前期白亜紀)がこれまでに発見されていた。ティラノサウルス科は後期白亜紀の後半に大型化。ティラノサウルス、ダスプレトサウルス、タルボサウルス、ズケンティラヌスなどは10m前後、中には10m超のものもあり、長崎市のティラノサウルスは、先行化石のサイズからすると、そうした大型種に匹敵する体格だったと推定されている。

  • 後期白亜紀のティラノサウルス科の獣脚類恐竜のイメージ

    後期白亜紀のティラノサウルス科の獣脚類恐竜のイメージ (出所:長崎市恐竜博物館、作画:月本佳代美氏)

こうした後期白亜紀に限られる同科の大型種の化石は、国内では長崎市と熊本県天草市以外では、産出した例がないという(天草市の化石も歯で、約8000万年前の全長7m超のティラノサウルス科のものと推定されている)。

なお、化石を産出した三ツ瀬層の年代は最近の研究により、およそ8000万年前であることが判明。同層の年代幅については、さらに詳しい調査が進められているところだという。また、産出の年代の分かる同科の化石は、アジアの中でも稀だという。

今回の化石の実物は、長崎市恐竜博物館にて2022年10月29日(土)より常設展示がスタート。FPDMにおいては、同日から複製が常設展示される予定だという(FPDMはリニューアルのため、2022年12月5日から翌2023年7月頃まで半年以上の休館が予定されている)。