その結果、新しい電子伝導現象を発見することに至ったという。同現象での、磁場を反転させた場合の電気抵抗の変化(奇関数磁気抵抗効果)の大きさは最大27%で、これまでの記録を10倍以上も更新したとする。

今回作製された構造は、非磁性半導体であるInAs薄膜(厚さ15nm)と、アンチモン化ガリウムに鉄を添加した強磁性半導体「GaFeSb」薄膜(15nm)を積層した二層のヘテロ接合だ。同構造においては、伝導電子はInAs層に存在し、抵抗率の違いによりInAs層のみに電流が流れる。そして、GaFeSb層との界面において量子力学的な結合が磁化と電流の間に生じることにより、時間反転対称性の破れが生じる。

一方でこのヘテロ接合中では、側面付近の静電場が作るポテンシャルによって、部分的に電子が一次元のエッジチャネルに流れることが知られており、これが空間反転対称性の破れを引き起こす。このような2つの対称性が同時に破れていることによって、大きな奇関数磁気抵抗効果が生じることになるとした。

なお、上述の磁気的な結合と側面付近の静電場が作るポテンシャルは、どちらも電圧印加によって変調可能であるため、ゲート電圧という外場で奇関数磁気抵抗効果を変化させることにも成功したという。

  • 今回の研究で用いられたInAs/GaFeSbからなるヘテロ接合

    (左)今回の研究で用いられたInAs/GaFeSbからなるヘテロ接合。(右)このヘテロ接合における電気抵抗は、外部磁場の向きを反転させると27%ほど変化し、巨大な奇関数磁気抵抗効果が発生したとする (出所:東大プレスリリースPDF)

今回の研究は、物質中の特異な対称性の破れによって、大きな奇関数磁気抵抗効果という物理現象が引き起こされたという点で非常に大きなインパクトがあるといえるとする。物質の対称性は、物性や機能を決める最も基本的な要因であり、それに起因した物理現象の開拓は学問的にも応用的にも広い分野で意義があると考えられるとした。

なお、研究チームでは今回のヘテロ接合にとどまらず、同様の対称性を持つほかの物質群においても、このような現象が生じ得ると考えているという。今回の研究を発展させることで、さらに大きく実用的な磁気抵抗現象が確認されれば、次世代のスピントロニクス・デバイスや磁気センサなど広範な応用が期待されるとしている。