東京大学(東大)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、J-PARCセンター、総合科学研究機構(CROSS)、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)の6者は、単純な結晶構造を持つユウロピウムとアルミニウムの合金「EuAl4」に中性子・X線の散乱実験を行ったところ、直径3.5nmの超高密度な「磁気スキルミオン」を生成していることを発見したこと、ならびに磁場や温度によって磁気スキルミオンの並び方が正方格子から菱形格子へと変化することを見出し、その起源が物質中を動き回る電子が媒介する相互作用に由来していることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 附属総合研究機構・物理工学専攻の高木里奈助教(理研 創発物性科学研究センター(CEMS)強相関物性研究グループ 客員研究員/JST さきがけ研究者兼任)、同・関真一郎准教授(理研 CEMS 強相関物性研究グループ 客員研究員/JST さきがけ研究者兼任)を中心に、理研、東大物性研究所、JAEA、CROSS、東大大学院 新領域創成科学研究科の研究者が参加した総勢11名の共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

電子スピンの渦巻き構造である磁気スキルミオンは、次世代超高密度磁気メモリのための新たな情報担体候補として、近年注目されている。典型的なものでその直径は数十~数百nmと非常に小さく、その存在を電気的に検出できることも知られている。

磁気スキルミオンは、元々、空間反転対称性が破れた特殊な結晶構造を持つ物質中で発見され、その形成にはジャロシンスキ・守谷相互作用と呼ばれる隣り合うスピンの向きを捻じ曲げようとする力が必要と考えられてきた。

しかし最近になって、空間反転対称性が保たれた結晶構造の物質中で、従来よりも高密度な磁気スキルミオンの観測が報告されており、その形成機構として物質中を動き回る電子に媒介される磁気相互作用が提案されている。

ただし、その新機構による磁気スキルミオン形成が報告されている物質はまだとても少なく、しかも3種類以上の元素からなる複雑な物質に限られていた。また、こうした磁気スキルミオンは結晶格子と同じ対称性に整列した状態でのみ観測されており、その並び方を外場によって制御できるかどうかはわかっていなかったという。

こうした背景のもと、研究チームが今回着目することにしたのが、空間反転対称性の保たれた正方格子構造の二元合金EuAl4だという。EuAl4の結晶構造は、EuとAlがそれぞれ形成する二次元的な層が交互に積層した単純な構造をしていることが特徴として知られる。

今回、EuAl4の磁気構造を詳しく調べるため、J-PARCおよびJAEA研究用原子炉JRR-3において中性子散乱実験を、独・電子シンクロトロン研究所DESYにてX線散乱実験を行ったところ、温度や磁場を変化させていくと多段階に磁気構造が変化し、中間の磁場領域において、直径3.5nmの磁気スキルミオンが規則正しく整列して正方形の格子を組んだ状態が現れることが発見された。

  • 1つの磁気スキルミオンの模式図

    (a)1つの磁気スキルミオンの模式図。各矢印はユウロピウム(Eu)原子それぞれの磁気モーメントの向きが示されている。(b)EuAl4の結晶構造 (出所:JSTプレスリリースPDF)

また磁場の強さを変えると、磁気スキルミオンの配列が変化し、菱形の格子を組んで整列した状態になることも見出された。これは、EuAl4中における磁気スキルミオンは並び方に自由度があり、外場によって配列を制御できる可能性が示されたものとなるという。

  • EuAl4の磁気相図

    (a)EuAl4の磁気相図。(b)観測された磁気スキルミオンの正方格子(III)および菱形格子(II)の模式図。背景色は、電子が持つ磁気モーメントの紙面垂直成分の向きが表されており、赤い部分で手前側、青い部分で向こう側を向いている (出所:JSTプレスリリースPDF)

さらに、磁性金属の理論モデルを用いて、正方格子における磁気構造のシミュレーション計算が行われたところ、実験で観測した磁気スキルミオンの配列変化をよく再現する結果が得られたことから、研究チームでは、物質中を動き回る電子に媒介される磁気相互作用が磁気スキルミオンの形成に主要な役割を果たしていることが強く示唆されたとしている。

今回、これまでの物質と比べて、より単純な2種類の元素からなる合金でも新機構による磁気スキルミオン形成が実証されたことから、少ない材料によるシンプルな材料設計につながることが考えられると研究チームでは説明しているほか、今回発見されたような配列の自由度が高い、超高密度な磁気スキルミオンを示す物質探索を進めることで、次世代磁気メモリ材料への道筋が開けることが期待されるとしている。