東北大学、日本原子力研究開発機構(原子力機構)、J-PARCセンター、九州大学(九大)の4者は10月13日、バルク単結晶銅系合金において従来の実用金属より数倍も大きい弾性変形(弾性歪み>4.3%)を実現したことを発表した。
同成果は、東北大大学院工学研究科金属フロンティア工学専攻の許勝特任助教、同・大平拓実大学院生(研究当時)、同・佐藤駿介大学院生(研究当時)、同・許皛助教、同・大森俊洋准教授、同・貝沼亮介教授、J-PARCのStefanusHarjo研究主幹、同・川崎卓郎研究副主幹、九大大学院工学研究院の村上恭和教授に加え、チェコ科学アカデミー、チェコ工科大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「NatureCommunications」に掲載された。
材料の特性を示す値の1つである「ヤング率」は、材料を一軸引張もしくは圧縮で弾性変形させたときの、変形歪みに対する応力の比のことであり、一般的に金属のように腰があって硬いものは、ヤング率が高くなるとされている。
また別の値である「弾性歪み」は、材料が弾性変形領域において伸びる(圧縮される)場合で、元の長さに対する伸びた(縮んだ)割合のことであり、結晶格子の原子間距離の可逆的な変化によるもので、理論的には10%を超える弾性歪みも予測されているが、強度に制約されるため、実際の金属材料の大半は1%以下に留まっているという。
しかし、医療用途やバネなどの機械要素部品によっては、低いヤング率と高い弾性歪みを求められる場合があるという。柔らかく伸縮しやすい金属が求められるわけだが、ヤング率は低くすると強度も同時に低くなってしまうため、トレードオフの関係にある柔らかさと強度を両立させることが課題となっていた。
また近年、格子歪みを能動的に制御することで材料の導電性、触媒活性などの物理・化学特性を向上させる「弾性歪みエンジニアリング」が注目されるようになってきたが、従来のバルク金属材料における最大弾性歪み限界は低く、格子歪みを自由自在に制御することが不可能であったことから、大きな弾性歪みを示す新規バルク金属材料の開発が求められていたという。
そこで研究チームは今回、東北大で1990年代に開発された、銅を主成分とする「銅-アルミニウム-マンガン合金系(銅系合金)」に着目。銅系合金は原子配列が規則化した体心立方構造を持ち、結晶の弾性異方性が大きいという特徴を持つことから、その結晶方位の制御による低ヤング率化と原子の規則配列による高強度化の両立を実現できれば、大きな弾性歪みが得られると推測されたことが着目した理由だという。また、銅系合金は、サイクル熱プロセスにより低廉に量産できることも特徴であるとする。