近年、さまざまな業界でロボットの導入が進みつつあるが、同時にロボットの社会実装の限界も見え始めている。「これを乗り越えていくには導入環境のイノベーションが必要」――そう考えた人々が集い、官民連携による「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」が立ち上がった。同タスクフォースは、ユーザーの業務フローや施設環境を、ロボットを導入しやすい“ロボットフレンドリー”なものに変革していくことの重要性を呼び掛けている。

タスクフォースを共同設立した経済産業省の製造産業局 産業機械課 ロボット政策室 室長補佐(総括)である福澤秀典氏が7月22日、オンラインで開催された「TECH+フォーラム 製造業 DX Day 2022 Jul. 持続的な競争優位性を構築する」に登壇。ロボットフレンドリーな環境の必要性やタスクフォースについて説明した。

“ロボフレ”で環境サイドのイノベーション

福澤氏によると、人手不足のような以前からある課題への対応に加え、コロナ禍で非接触が求められるようになったことに伴い、各所でロボット導入の機運は高まっているという。だが、どちらかというとユーザー企業固有のニーズに合わせたロボットを開発するケースが多く、高価格化、オーバースペックの傾向にあると福澤氏は指摘する。

これではロボットの社会実装はなかなか進まない。そこで、視点を変えて、導入サイドをロボットフレンドリーな環境に変革することが重要になる。略して“ロボフレ”だ。ロボフレ環境が実現されれば、現在は個別対応となっているロボットの技術仕様が収斂され、大量生産が可能になる。福澤氏は、「これが価格に反映されてロボット導入のハードルが下がる流れとなり、最終的には人々の生活が豊かになる」と予測する。

  • ロボット導入普及の課題と、今後のロボットフレンドリー環境

ロボットだけではない。実は、過去にも環境側のイノベーションが進むことで新しい技術の導入が加速した例はある。自動車は歩車分離により普及に弾みがつき、住宅建材も91x91センチメートルの格子状の基本設計により内部建具の大量生産が可能になった。

このような考えから、経産省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2019年11月に「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」を立ち上げた。ロボフレ環境を実現するための標準化を目的としており、2022年6月時点で会員企業は60社を数える。ユーザー企業と開発メーカーの両方が参加しており、取り組み対象となる施設管理、小売、食品、物流倉庫の4分野にそれぞれTC(技術委員会)が設けられている。

ロボフレ環境の構築は、令和2年度から同6年度の5年間の事業として予算が組まれている「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の一部でもあり、福澤氏によると、今年度(令和4年度)は約9.5億円の予算を計上しているそうだ。

盛り付けロボットの導入で7人体制を3人に

ロボット実装モデル構築推進タスクフォースの4分野のうち、食品分野ではどのような取り組みが行われているのか。

検討対象とするのは、惣菜の製造工程だ。惣菜が分類される中食の市場規模は2018年度時点で10.3兆円、食品製造業の半分を占めると言われている。にもかかわらず、惣菜の製造は自動化があまり進んでいない。その要因の一つとしては、多品目を小ロットで製造するため、個々の製造ラインを全て自動化するのは現実的ではないという点が挙げられる。盛り付けの見た目も仕様として注文されていることが多く、汎用的な製造ラインを作るのも難しい。こうした背景から、タスクフォースでは、消費者の盛り付けに対する要求度合いを踏まえた上で、商品の形状をドラスティックに変更することを決めた。

「人による最小限の手直しを前提に、自動盛り付けラインを開発できないかという視点で取り組みを進めました」(福澤氏)

目指したのは、自動盛り付けラインの構築と出荷工程の自動化だ。目指す方向性として、次の4点を掲げた。

  • ・低価格化(自動化ソリューションの業界共有化)
  • ・実現性の向上(商品仕様、番重・容器などの“ロボフレ”化)
  • ・シンプル・コンパクト(自動化ソリューションの家電化)
  • ・導入・運用を鑑みた全体最適(デジタルツインによる生産プロセス最適化、量子コンピュータによるシフト計算)
  • この方針にのっとり、まずは盛り付けラインの構想を設計し、セル型盛り付けロボットシステムを開発した。産業用ロボットであるスカラロボット(水平多関節ロボット)をベースとしており、ハンド部分に重要センサーを搭載し、リアルタイム重量が測れるようにしている。さらに、操作しやすいように操作盤を設置。ハンドは精度よりも価格を重視し、形状を工夫したという。

    2022年3月にマックスバリュ東海の工場で導入したところ、それまで7人体制で動かしていた盛り付けラインを3人体制にすることができた。ロボットは1時間あたり250パックの盛り付けが可能で、「人による作業と遜色ないタクトタイム」だと福澤氏は説明する。