小売事業者が保有する購買データや会員データ・属性情報を用いて、オフラインデータとオンラインデータの統合、ID単位でのターゲティング広告配信から商品購買までの効果検証を行うデータ・ワン。オフラインでの購買行動を可視化することにより、顧客にとって最適な情報を提供すると共に、さまざまなメーカーにも効率的なマーケティング、ブランディングの手法を提供している。

6月23日、24日に開催された「TECH+ EXPO 2022 Summer for データ活用 データから導く次の一手」で、小売業が“お客さま最適化”を実現するために必要な取り組みなどについて、元ファミリーマート 執行役員であり、現在はデータ・ワン 取締役COOを務める井上博之氏が「お客さま最適化を追求する、小売りのデータ革命」と題した講演を行った。

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小売業になぜ、会員化やID-POS開発が求められたのか

後援冒頭、井上氏は「弊社では、小売業として極めて重要な“お客さまの来店促進”および“トライアル・リピート”をどのように促進していくかという観点からデータ活用を行ってきました」と語り、ファミリーマートでの経験を基に、小売業における“お客さま最適化”について紹介した。

POSが導入されていなかった時代、小売業の発注はいわゆる“勘ピュータ”に頼ったものになりがちだった。POSの導入によって過去データを基にした発注が可能になったものの、今度は店舗格差が明確化。さらに、マス以外では顧客とのコミュニケーションが取れない状況も課題となった。

また、POSはあくまでも販売した商品のデータしか取得できないため、「いつ・どこで・何が・どのくらい」売れたかは分かるが、「誰が・なぜ」購入したのか、さらには対象商品が「どうして」売れたのかまでは分からない。そこで、「販売実績だけでなく顧客別の接点を持ちたい」「お客さまが必要とする情報のみコミュニケーションしたい」というニーズを満たすために、会員化およびID-POSの開発が求められたのである。

  • POSデータからは「誰が」「なぜ」購入したのかは不明なままだ

“ID-POS=会員化”による“みなし属性”情報の活用

個への対応として最も有効だったと井上氏が挙げるのが、共通ポイントカードの導入だ。顧客最適のサービスを実施するには、ID付きのデータ取得が必要だが、ハウス会員では一定数を早期に確保するのが難しい。しかし、すでに体制が整備された共通ポイント制度を活用すれば、時間とコストが大幅に節約できる。そして“ID-POS=会員化”によって、個人情報を取らずに購入者を識別できる“みなし属性”データの収集が可能になるのだ。

「成功のポイントは共通ポイントの中にも自社の会員制度を構築することにあります。それは、自社のブランドをしっかりとお客さまに理解していただくためです。ファミリーマートの場合は、共通ポイントの機能を持った『ファミマカード』を発行しました。一般的な共通ポイント会員にお得な情報を、さらにファミマカード会員にはもっとお得な情報をという差別化をし、対応しました」(井上氏)

こうしてスキームは構築できたが、実際の会員獲得は各店舗が実施する。つまり、店舗がその気になり、顧客に店頭で価値を感じてもらえなければ成功しない。また、店舗が取り組んでもうまく会員を獲得できないとモチベーションも下がり、長続きしなくなってしまう。そこでどのように店舗を巻き込んでいくかを考え、加盟店とのコミュニケーションを強化し、自店で新規会員を拡大した時の想定されるメリットの理解や、成功体験の共有、店舗対抗コンテストなどを実施し、「加盟店の理解」と「スタッフがゲーム感覚で楽しめるよう工夫」をした。

こうした施策により会員化がある程度進むと、ID-POSの販売実績データを活用したCRM戦略が可能になった。“攻めの営業”では各店舗の顧客をもっと知り、寄り添った施策が必要になるためだ。

例えばマスに対しての販促は数多くのクーポン配布ができる反面、必要としない人にもクーポンを発券することになる。そこで井上氏は会員の購買計測を実施。個に対するクーポンの発券により、マスと比べて配布枚数は絞られるものの、必要な商品のみ発券できる仕組みを構築した。

「結果として、個々の嗜好に合わせて情報を出し分けることにより、顧客と企業双方のメリットが大きく、有効な関係を築けるようになります。実際の回収率はマスへ向けた定量配布の無料券では約17%だったのに対して、嗜好に合わせた出し分けでは約76%まで大幅に増加。しかも費用は約5分の1にまで抑えられました」(井上氏)