東京大学(東大)は6月13日、酸化ハフニウム(HfO2)系「強誘電体ゲートMOSFET」(FeFET)を用いた機械学習方式「物理リザバー・コンピューティング」を用いて、高精度の音声認識の実証に成功したと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の名幸瑛心大学院生、同・トープラサートポン・カシディット講師、同・中根了昌特任准教授、同・竹中充教授、同・高木信一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国ハワイ州ホノルルで現地時間6月13日から開催される国際会議「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits(VLSIシンポジウム)」で発行される「Technical Digest」に掲載された。

高速かつ低消費電力のAI計算を可能とする技術として、学習すべき読み出し重みが1層しかないことなどから学習が高速であり、時系列情報処理に適した方式とされるリザバー機能をハードウェアで実現した物理リザバー・コンピューティングが期待されているという。

研究チームは2020年に、HfO2系強誘電体材料を用いたFeFETを用いた物理リザバー・コンピューティング方式の基本動作を実証していたが、同方式のポテンシャルをまだ十分明らかにできていない状態だったとする。そこで今回は、その応用として、音声認識への適用を想定して、高速計算を可能とする並列データ処理による、FeFET物理リザバー・コンピューティングの新方式を提案し、その有効性を実験的に検証することにしたという。

今回用いられたFeFETは、Si基板上に0.7nmのSiO2と、10.5nmの膜厚のHfO2系強誘電体材料「HZO」膜をゲート絶縁膜として積層したMOSFETで、現在の集積回路を作製するプロセスとの親和性が高い点が特徴の1つとなっているという。また、時系列データに対応する入力信号をゲート電圧として印加することで、HZO膜の分極状態を制御することが可能だという。

  • )FeFET物理リザバー・コンピューティングの模式図

    (上)FeFET物理リザバー・コンピューティングの模式図。(下・左)HZO/Si FeFETの素子構造。(下・右)同・電流-ゲート電圧特性 (出所:プレスリリースPDF)

今回の物理リザバー・コンピューティングとしては、分極の記憶特性や分極が時間的に変化する特性を、トランジスタの電流の時間応答特性として読み出す仕組みを採用。電流の時間応答のさまざまなパターンを機械学習の手法により分類することで、時系列入力データが含んでいる情報に対する学習や推論を行うことが可能になるとする。