10名の患者が研究に登録され、NCNPまたは共同研究機関の外来において、同治療法が行われた。治療は同治療法の日本語版のマニュアルに基づきながらも、個々の患者の状況に合わせて柔軟に治療内容を適用する方法で実施された。
最も重要な評価項目は、ICD-11のPTSDおよび複雑性PTSDの診断評価のために新たに開発された構造化面接の「国際トラウマ面接」で評価された治療後、および治療終了3か月後の複雑性PTSD診断と重症度であり、そのほかに、うつ症状、不安症状、解離症状、感情調整の問題、対人関係の問題、生活の質、否定的認知などの変化が広く評価された。
治療を完了した7名のうち、6名は治療後に複雑性PTSDの診断基準を満たさなくなり、7名全員が治療終了3か月後に診断基準を満たさなくなったという。また複雑性PTSDの重症度得点は、治療前と比べて治療後および治療終了3か月後に有意な(統計的に意味のある)改善が認められ、その効果量も大きなものだった。同様に、うつ症状をはじめとしたさまざまな評価項目においても有意な改善が認められたという。
治療を途中で終えた3名のうち、中間評価を受けた2名にも複雑性PTSD症状の改善が認められた。また治療期間中に重篤な有害事象は認められなかったとする。
この臨床試験に参加された方々は、長期にわたる持続的な虐待を経験しており、7名は1つ以上の併存疾患、8名は重度のうつ症状、6名は自殺企図歴のある患者だったが、安全を保ちながら治療を進めることができ、複雑性PTSDをはじめ、さまざまな精神症状や生活機能の改善が認められたという。
なお、今回の研究の結果から、STAIR Narrative Therapyは複雑性PTSDの患者にも適用可能であり、少人数での結果という前提があるが、海外の先行研究と同等の効果が期待できることが示唆されたと研究チームでは説明しており、今後は、予備試験で得られた結果をもとに、同治療法の有効性をより厳格な方法で検証するために、ランダム化比較試験を予定しているとしている。