めんそーれ
沖縄特有で歓迎の意をもつこの言葉を聞くと、まるで実家に帰省したかのような温かい気持ちになるのは筆者だけだろうか。角がなく聞き心地が良い。
さらに、その心地の良さに拍車をかける温暖な気候や綺麗な海は観光客を魅了し、一度の旅行では物足りない。かくいう筆者も沖縄にハートを射抜かれ、ここでツラツラと魅力を語ってしまうのである。
さて、今回紹介する研究は、冒頭からわかるように沖縄に関するものだ。
東北大学大学院理学研究科、名古屋大学大学院環境学研究科、国立科学博物館、沖縄県立博物館・美術館、国立台湾大学、チューリッヒ工科大学、総合地球環境学研究所(地球研)、琉球大学理学部および東京大学大学院理学研究科の研究グループは、貝化石と鍾乳石を用いた新しい地質考古学的手法を構築し、その手法から最終氷期における沖縄の気温を季節レベルで導き出したという。
詳細は学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されている。
現在、沖縄の気候は東アジアモンスーンの影響をうけ、冬季には北風が強く、夏季には暖かく湿った南風が卓越して台風の影響をうける。
この東アジアモンスーンの長期変動を理解するには、現在の観測記録の解析だけではなく、現在と気候状態が大きく異なる「氷期」における気象記録を掘り起こすことも重要とされる。
中国では石筍※1研究がさかんに行われ、過去数万年の東アジアモンスーン変動の連続記録が蓄積されているものの、それらは降水量を示す記録であり、気候要素で最も重要な「温度」の記録は圧倒的に少ないのが現状だ。これは過去の気温を高精度で復元する手法の確立が極めて困難であり、東アジア地域における氷期の気温を定量的に復元した例は皆無であった。
そこで、研究グループは沖縄屈指の観光スポットを運営する南都の協力のもと、沖縄本島南部の洞穴遺跡から出土したカワニナ化石と鍾乳洞内で成長する石筍について調査し、新たな地質考古学的手法の確立と過去の夏季および冬季の気温変化の復元を試みた。
カワニナの貝化石は洞穴内の約2万3000年前と約1万6000~1万3000年前の地層から採取され、これらは旧石器人が当時採取して食した後に遺棄されたものだ。石筍は約5万年前から成長を続けていることが放射性同位体の年代測定から判明し、カワニナ化石が当時生息していた上記2つの年代の石筍部位について調査するとともに、現場地域の観測から、雨水、鍾乳洞内の滴下水や流水、湧水の酸素同位体組成※2がほぼ同じ値であることを確かめたという。
また、カワニナの酸素同位体組成は、生息場の温度と水の酸素同位体組成で決まることから、原理的にはカワニナ化石と石筍中の流体包有物の酸素同位体組成を組み合わせることで、当時の「気温」を推定することが可能となることがわかった。
研究チームは、東北大学大学院理学研究科の炭酸塩同位体分析システムを用いてカワニナ化石の酸素同位体組成を、名古屋大学大学院環境学研究科の極微量水同位体分析システムを用いて石筍中の流体包有物の酸素同位体組成を世界水準の精度と確度で分析した。
その結果、2万3000年前(最終氷期)の沖縄の気温は夏季・冬季・年平均ともに現在と比べて6~7℃低く、1万6000~1万3000年前(退氷期:氷期~間氷期の移行期)では現在と比べて4~5℃低かったことが明らかとなった。
近現代の沖縄は亜熱帯気候であり、琉球王国の歴史書「球陽」では18世紀末〜19世紀初めに数回の降雪が記録されているものの、沖縄本島では2016年に観測史上初めて雪(みぞれ)が記録されたばかりだ。本研究の結果からは、最終氷期の沖縄は温帯気候下にあり、冬には雪がちらつく日が今より頻繁にあったと考えられる。
研究グループは今後、さらなる遺跡調査によって出土した貝化石試料と石筍を分析することで、最終氷期~現在にかけての過去3万年の沖縄の気温変化をより定量的に明らかにしていきたいという。
参考文献
※1:鍾乳洞の天井の水滴が滴下して洞床面に炭酸カルシウムが析出(沈殿)し、上方へ向かってタケノコ(筍)状に成長した洞窟二次生成物
※2:酸素の安定同位体16Oと18Oの量比を標準物質との千分率偏差(δ18O)で表す。水(H2O)の酸素同位体組成からは蒸発や降水などの水循環変動を、炭酸カルシウム(CaCO3)の酸素同位体組成からはそれが形成された場の環境変化(温度や水の酸素同位体組成の変化)を調べることができる