これにより従来は、一次元でしか制御できなかった素子内のドーパント不純物分布を、二次元面内で変化させることが可能となったことにより、入力信号の経路や大きさなどによって素子の抵抗状態が可逆的に遷移する仕組みが実現されたという。

また、例えば人が大きな音を聞いた当初は驚きの反応をしても、その音が繰り返されて無害であるとわかったときは反応を示さなくなる「慣れ」や、逆に大きな音を危険と感じてもっと小さな音にも敏感になる「感作」、「パブロフの犬」に代表される条件反射など、さまざまな機能を実装することが可能であり、実際にそうした生体の脳・神経系が有する高度な機能を実証することに成功したともしている。

  • 4端子メモリスタ人工シナプス素子の構造

    4端子メモリスタ人工シナプス素子の構造とそれに実装された連合学習機能「パブロフの犬」を表すイメージ (出所:阪大Webサイト)

研究チームによると、近年、人の認識能力を超えるレベルに達するニューラルネットワークも開発されているが、人が持つ概念学習、情景理解、言語習得、文脈理解などの能力にはまだ到達しておらず、人のように学習し考えるシステムを構築することは、より強力で、未来予測や感情をも含めたコミュニケーションが可能なAIや、認知能力を弱・強化する技術、ひいては「意識」への深い理解につながる新しい価値を生み出す可能性を秘めているという。

また、今回開発された4端子メモリスタ人工シナプス素子は、多くの入力信号の単なる総和のみで出力が決まるのではなく、多くの入力信号の相関を推し量り出力する機能を有する情報処理素子であることから、従来のニューラルネットワークの学習アルゴリズムを、脳・神経系を忠実に模倣する構造に基づく新たなアルゴリズムへと発展させ、AIハードウェアの産業分野において新たな潮流を生み出す可能性を秘めているともしている。