北海道大樹町の宇宙企業「インターステラテクノロジズ(IST)」は2022年4月27日、開発中の超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」のターボポンプの水流し試験を実施、その模様を報道陣に公開した。

ターボポンプはロケットの心臓部にも例えられる重要な部品のひとつ。試験は無事に成功し、必要なデータを取得。2023年度の初打ち上げに向け、今年から多くの試験が始まろうとしている。

  • 超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」

    インターステラテクノロジズ(IST)が開発中の超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」の想像図 (C) IST

ISTの超小型ロケット「ZERO」とは?

ISTはロケットの開発・製造・打ち上げサービスを手掛けるスタートアップ企業で、北海道の大樹町に本社を構える。有志団体「なつのロケット団」を前身とし、現在では社員数85人の企業にまで成長している。

同社は現在、観測ロケット「MOMO」を運用している。MOMOは観測機器などを高度約100kmの宇宙空間まで運ぶためのロケットで、2017年に初打ち上げを実施。2019年5月4日の3号機で初めて成功し、日本の民間企業が開発したロケットとして初めて宇宙空間に到達するという快挙を打ち立てた。これまでに7機中3機が打ち上げに成功している。

そしてMOMOの運用と並行し、同社は約100kgの超小型衛星を軌道に投入するためのロケット――超小型ロケット(Micro Launcher)の「ZERO」の開発も行っている。

ZEROのように人工衛星を軌道に投入するためのロケットは、MOMOのような高度100kmまで行って落ちてくる観測ロケットとは、必要なエネルギーも、そのエネルギーを生み出すためのロケットの機体やエンジンの技術も大きく異なる。

たとえばZEROの機体は、全長24m、直径1.7m、質量33t。MOMOは全長10m、直径0.5m、質量1.2tであり、その違いがよくわかる。

そして最も大きな違いがエンジンで、MOMOよりもはるかに強力な推力を叩き出せるエンジンを新たに開発。さらに第1段にはそのエンジンを9基も束ねて装着する。さらに、MOMOは1段式だが、ZEROでは2段式とし、2段目にも同じエンジンを改修したものを装着する。

これまでと桁違いの技術、そしてエネルギーによって、初めて人工衛星を地球を回る軌道に乗せることができるのである。

  • 超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」

    運用中の観測ロケットMOMOと、開発中の超小型衛星打ち上げロケットZEROの比較 (C) IST

ZEROのエンジンのターボポンプ

ZEROのエンジンの中で、重要な部品のひとつであり、そしてMOMOにはない新規開発となる部品が「ターボポンプ」である。

ターボポンプは、燃料の液化メタンと酸化剤の液体酸素のそれぞれを、ロケットのタンクからエンジンの燃焼室に送り込むための部品で、人間の体でいう心臓にあたる。MOMOのエンジンは燃焼室の圧力が比較的低いため、ヘリウムガスを使って押し込むことができた。

しかし、ZEROのエンジンは圧力が桁違いに高くなるため、そのエンジンに推進剤を送り込むためには、ガスで押す力ではとても足らない。そこで、ターボポンプという強力なポンプを使う。

このターボポンプを動かす仕組みはいくつか種類があるが、ZEROでは「ガス・ジェネレーター・サイクル」という仕組みを使う。

まず、ガス・ジェネレーターという小さな燃焼室で燃料と酸化剤の一部を燃やし、高温・高圧のガスを発生させる。そして、そのガスをターボポンプにあるタービンに当てて高速で回転させ、その力で推進剤をポンプへ導き、吸い込むための「インデューサー」と、推進剤をエンジンへ送り込むための圧力と運動エネルギーを与える「インペラー(遠心羽根車)」を動かす。これにより、タンクからエンジンへ推進剤を供給する。

仕組みとしてはジェットエンジンや発電のガスタービンと似ているが、ロケット用のものはとにかく軽く、小さく造る必要がある。

また、その内部は極限状態の環境にあり、たとえばガス・ジェネレーターで生み出されるガスや、そのガスが流れるタービンは400~600℃と高温になる一方、インデューサーやインペラーの中を流れる液化メタンや液体酸素は-162~-183℃と極低温になる。さらに、インデューサーで吸い込む推進剤の圧力は低圧である一方、ポンプから出ていく推進剤はきわめて高圧になる。

温度が違うと材料は伸び縮みし、圧力が違うと推進剤は漏れやすくなる。そうした困難を乗り越え、各部品が正常に回転するようし、そして全体を小さく、軽く造らなければならない。

  • 超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」

    ZEROに使用されるロケットエンジンのターボポンプの想像図 (C) IST

とくに、ZEROのターボポンプは「一軸式」という、とくに難しい仕組みも採用している。

他のエンジンでは、燃料側と酸化剤側でターボポンプをそれぞれ分けて装備しているものが多いが、ZEROではひとつにまとめ、燃料と酸化剤の両方をひとつのタービンで送り込むようになっている。これにより、ポンプを分ける場合と比べ、システム全体を小型・軽量化することができるが、その一方で反応しやすい酸素とメタンが隣り合っていることなどから、シール(漏れを防ぐ部品)が壊れると、故障、爆発する危険性もある。

あえて難しい技術に取り組んでいる理由について、IST研究開発企画統括の金井竜一朗氏は「ポンプを燃料と酸化剤で分けると、造るのは楽。だが、ZEROの第1段はエンジンを9基、第2段にも1基装着するため、1基のエンジンにつきポンプが2基となると、合計で20基も装着することになり、質量、サイズ、試験の工数などが跳ね上がってしまう。そのため、チャレンジングだが、一軸式にすることで、それらの削減、小型化を図っている」と語る。

また、他国の超小型ロケットでは、タービンを回すのにガス・ジェネレーターで生成したガスを使わず、電動モーターで回す電動ポンプ式を採用している例もある。大推力のエンジンには向かないが、ガス・ジェネレーターに比べて構造を簡素化でき、電動なので回転数などの制御もしやすいという利点がある。

ZEROでガス・ジェネレーターを採用する理由について、IST代表取締役社長の稲川貴大氏は「最初の研究段階では、電動ポンプも含めて、どのサイクルにするのかを検討した。たしかに電動ポンプは小型ロケットに向いてはいるが、私たちは将来的により大きなロケットを開発することを考えており、大推力エンジンへの発展性、そしてコストメリットのある技術という観点から、ガス・ジェネレーターを採用した」と語った。

  • 超小型衛星打ち上げロケット「ZERO」

    ターボポンプについて解説するIST代表取締役社長の稲川貴大氏 (撮影:渡部韻)