ヘテロ構造とその境目が顕微鏡観察から明確に確認されたほか、走査型トンネル顕微鏡にて、原子スケールでのヘテロ接合の構造の観察もなされたという。ニッケル錯体の領域は、モット・ハバード状態のため5Å間隔でニッケル三価の電子受容サイトが輝点として現れた一方、パラジウム錯体の領域では電荷密度波状態のため、1つ飛ばしの10Å間隔でパラジウム四価の電子受容サイトが現れたとする。また、ヘテロ接合部では、モット・ハバード状態とも電荷密度波状態とも異なる変調した状態がおよそ2.5nmに渡って観測され、これは2種類の一次元鎖が原子レベルで接合していることを示す、直接的な証拠だと研究チームでは説明している。

今回の研究について研究チームでは、一次元電子系のマクロスケールおよび原子スケールのヘテロ接合を明らかにし、一次元ヘテロ接合の概念を実証するものであるとする。

2022年時点の半導体プロセスの最先端は5nm/4nmと呼ばれるレベルに到達しているが、それでも原子の個数では数十個分であり、原子数で見れば、まだ減らすことができる可能性がある。

仮に原子1個分の幅で半導体デバイスを作れるようになれば、電子機器の性能は今よりも向上することが期待される。

なお、現在の技術では、まだ原子1個分の幅のナノワイヤを作ることができないため、一次元ヘテロ接合がどの様な特性を示すのか調べることはできないと研究チームでは説明している。ただし、ハロゲン架橋金属錯体であれば擬一次元電子系物質としてそれが可能であるため、研究チームでは現在、ヘテロ接合の電気物性を他大学と共同研究をすでに進めているとするほか、一次元電子系で動作する極小半導体デバイスの実現に向けて、ハロゲン架橋金属錯体のヘテロ接合は良いモデルになることが期待されるとしている。

  • 2種類の錯体のヘテロ構造の顕微鏡画像

    (左)Ni錯体(1)とPd錯体(2)のヘテロ構造の顕微鏡画像。(中央)同じく走査型トンネル顕微鏡像。(右)走査型トンネル顕微鏡像の矢印の位置の強度プロファイルが表されたグラフ。1の領域(上段)は5Å間隔のモット・ハバード(MH)状態、2の領域(中段)は10Å間隔の電荷密度波(CDW)状態が示されている。ヘテロ接合の領域(下段)では、MHとCDWから変調した状態がおよそ2.5nmに渡って観測された (出所:東北大プレスリリースPDF)