都立八王子東高等学校(東京都八王子市)は3月12日、生徒が自身の興味のある社会課題の解決に向けたアイデアを共有する場として、「探究学習」の成果発表会を開催した。この授業は、「超高齢化社会」や「街づくり」などの社会課題のほか、「ゲーム理論」や「小型衛星」といった学問探求に関わる計10種のテーマの中から、生徒が自主的にプロジェクトを決めて参加するものだ。

本稿では、「オープンデータ」をテーマに、同校の1年生が日本オラクルの協力を得ながら社会課題の解決を目指した6つのソリューションについて紹介したい。なお、同社の「Oracle for Research」を高校生が授業で活用するのは、今回が初とのことだ。

オープンデータとは、国や地方公共団体、事業者らが保有するデータのうち、誰もが編集し再配布などできるよう無償で提供されるデータを指す。これらのデータは営利目的や非営利目的を問わずに二次利用が可能だ。

  • 都立八王子東高等学校

    都立八王子東高等学校

最初に紹介するのは「登校時の交通事故の削減」を目指したグループだ。彼らは登下校時に自転車を使用していることから、不注意などによる事故発生件数の削減を目指したという。警視庁が発表している、過去の自転車交通事故の発生場所および件数のデータをGoogleの地図データ上に表示することで、事故が多発しやすい場所の可視化に取り組んだ。

発表した生徒は「警視庁が発表している事故発生場所の緯度と経度のデータを、地図上に反映させるのが難しかった。10進数と60進数の違いや、小数点以下の切り捨てや切り上げなどに注意しないと目的の地点にプロットできないので、苦労した」と語った。

  • 「登校時の交通事故の削減」グループの発表の様子

  • 日本オラクルが提供したツールを活用して、データの可視化に挑戦した

続いては、遠方からの旅行者向けのソリューションとして「雨天時の快適な旅行プランの提案」に取り組んだグループだ。4人に1人が旅行先で急な降雨で困った経験があるとの調査結果を見たことから、雨の日でも楽しめる観光ルートを提案できるWebサイトの構築に着手したという。

東京都が公開しているオープンデータのうち、観光スポットや文化財、バス停に関するデータを活用したそうだ。ソリューション開発に着手した当初は、雨の日でも歩けるアーケード街のデータの利用も考えていたとのことだが、適切なデータが見つからなかったとのことだ。

「授業を通して、オープンデータが重要であることが分かった。サービス開発に必要なデータを探すのが大変だったので、利用可能なデータがもっと増えてほしい。傘の貸し出しスポットの情報などを追加できれば便利だと思う」と生徒はコメントしていた。

  • 「雨天時の快適な旅行プランの提案」グループの発表の様子

医療機関や教育機関に関するオープンデータを活用して、「地域の人口に対するサービス充実度分析くん」を作成したグループもある。このソリューションは、地域の年齢別人口に着目し、それぞれの年齢層に適した公共福祉サービスが提供されているのか疑問に思ったことから着想したものだ。

同ソリューションにより、地域住民は自身が住む地域にどのようなサービスが存在するかを調べられるようになる。また、将来的には自治体など行政機関に対して、適切なサービスを必要な地域に展開するよう働きかけるための材料とすることまで見据えているとのことだ。

  • 「地域の人口に対するサービス充実度分析くん」グループの発表の様子

「八王子市の欠点とその解決策について」をテーマに設定したグループもある。このグループは同市の犯罪の多さを課題に感じ、改善につなげられるソリューションの開発を目指した。

同グループは、市が公開しているオープンデータから、過去の天候と犯罪発生件数に関連性を見出したという。平日の日中に晴れているとオレオレ詐欺などの特殊詐欺が増加し、雨の日には車上荒らしが増えるといった具合だ。これらのデータと、人通りの多少や街灯の有無などを組み合わせることで、犯罪が増加しそうな地域や時間帯に対して注意喚起できるようになる。

  • 「八王子市の欠点とその解決策について」グループの発表の様子

  • オープンデータを利用して犯罪発生と当日の天候の関連性を分析した

続いては「気象要素の変動による体調悪化の防止」に関するソリューションだ。気象庁が発表しているオープンデータと、「体調」という個人のデータを組み合わせた点がこのグループの特徴だ。頭痛や倦怠感などを記録し、あとからその日の気圧や天候などの情報と照らし合わせることで、自分だけの体調管理ツールとなる。

自身の体調と気象の関係性が見えてくることで、朝の天気予報からその日の体調を予測できるようなソリューションを目指したという。将来的にはウェアラブル端末などとのデータ連携により、さらに正確に体調を予測できるのではないかと、生徒は期待の表情を見せた。

  • 「気象要素の変動による体調悪化の防止」グループの発表の様子

最後に紹介するのは、「誰もが安心して八王子で暮らすためには~いつでもどこでもトイレへGO!!~」を作成したチームだ。Googleマップ上に、市が公開している福祉関連のオープンデータからトイレの情報をマッピングしている。外出先で急にトイレに行きたくなった場合に、自身の位置情報と照らし合わせて最も近くの公衆トイレを案内するソリューションだ。

同市ではトイレの便器数や多目的トイレの有無まで公開しているという。これを利用することにより、自身に合わせた適切な公衆トイレを探せるとのことだ。発表した生徒は「八王子市のように、詳細な福祉関連のデータを公開していない市区町村もあったのが残念」と話していた。

  • 「誰もが安心して八王子で暮らすためには~いつでもどこでもトイレへGO!!~」グループの発表の様子

同校では、2018年度から今回のような「探究学習」を試行しており、2019年度から本格的に取り組んでいるという。これまでにもオープンデータの利活用に向けたプロジェクトはあったのだが、「オープンデータを使ってこんなことができそうだ」と構想する段階にとどまっていたそうだ。

今年度からは日本オラクルの協力を得られたことで、実際にオープンデータを活用したデータ分析やソリューション開発にも取り組めるようになったとのことである。

日本オラクルのDigital Transformation推進室でデータアナリストを務める横山慎一郎氏は、オープンデータの利活用にあたっての考え方や、同社が提供する「Oracle Analytics」のツールの使い方を指導するために、オンラインで何度か授業に参加したという。生徒の発表を聞いた同氏は「デジタルテクノロジーが日本でも当たり前の世界になりつつあると感じる。日本の未来は明るいだろう」と、プロジェクトに携わった期間を振り返った。また、授業の進め方や教員とのコラボレーションの方法について、来年度以降につながる改善策も見つかったようだ。

また、主任教諭を務める島津聡先生は「今年度は、初めてオープンデータを活用したソリューションを成果物として発表できるようになった。学校にとっても生徒にとっても大きなステップだと思う」と話してくれた。

同じく主任教諭である白石岳先生は「プロジェクトの最初の授業では、『オープンデータってそもそも何だろう?』と生徒と一緒に考えることから始めた。実際の活用例などを示しながらも、生徒が自分たちでどの程度頑張ることができるのかを知りたかったので、あまり手を出しすぎないように気を付けていた。もどかしい場面もあったが、生徒はなんとか今日の発表までこぎつけてくれた」と笑顔を見せていた。

さらに、校長の宮本久也先生は「知識を覚えるための勉強ももちろん大切だが、それだけでは変化の激しい現代においては不十分だと思う。自分で周囲の課題を見つけて、自分なりに答えを導いて、さらにそれを相手にわかりやすく伝える力が必要になるだろう。今回のような取り組みを通じて、生徒たちにはそうした力を身に付けてほしい」と生徒への期待を語っていた。