産業技術総合研究所(産総研)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月14日、月周回衛星「かぐや」(2009年6月運用終了)に搭載されたマルチバンドイメージャにより取得された月全面にわたるデータを用いて、カンラン石に富む岩体の場所(カンラン石サイト)と、カンラン石サイトの中で斜長石に富む岩体が隣り合って存在する場所(共存サイト)の調査を実施したところ、巨大衝突盆地周辺に点在する49か所のカンラン石サイトのうち、14か所が共存サイトであることを確認したほか、詳細な地質解析から、このような共存サイトは、巨大衝突盆地のピークリングに現れた組成的には不均質なものであることがわかったことを発表した。

同成果は、産業技術総合研究所 地質調査総合センター(GSJ) 地質情報研究部門の山本聡研究員らの研究チームによるもの。詳細は、惑星科学全般を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research:Planets」に掲載された。

月表面の巨大衝突盆地周辺では、数百m~数kmにわたってマグマが冷えて固まってできた火成岩に含まれる造岩鉱物の1つであるカンラン石に富む岩体(カンラン石サイト)があることが知られている。地球でも上部マントルは主にカンラン石の多い岩石(カンラン岩)からなることから、カンラン石に富む岩体の由来については、おそらく月の深部にあるマントル上部であろうと考えられているが、月全体でカンラン石サイトは50数か所程度であり、月表面上では珍しいとされている。

また、そうしたカンラン石サイトのうち2つは、98%以上が斜長石からなる純粋斜長岩の岩体が隣り合って存在しており、共存サイトと呼ばれる。この純粋斜長岩は、月の形成初期のマグマオーシャンが冷却する過程で生成された原始地殻の名残であると考えられており、マントル由来と考えられるカンラン石に富む物質と、原始地殻由来と考えられる斜長岩が、どのようにしてこのような共存サイトを作るようになったのかを理解することは、月のマントルと地殻の構造・組成および進化過程を深く理解することにつながると期待されている。

そこで研究チームは今回、「かぐや」がマルチバンドイメージャを用いて取得したデータを用いて、共存サイトの分布を月全面にわたって調査。発見した共存サイトについて、これまでに発見されていたサイトも含めて、その地質構造の解析を行うことにしたとするほか、「かぐや」で取得された地形データと組み合わせて、マルチバンドイメージャによる鉱物・岩石分布の鳥瞰図を作成し、カンラン石と斜長岩露頭の位置関係や地質構造を詳細に調査したという。

その結果、カンラン石サイト49か所のうち、14か所で純粋斜長岩と共存サイトとなっていることが確認されたほか、これらの共存サイトは巨大衝突盆地のピークリングの急斜面や小さな衝突クレーターに見つかることが判明したとする。また、カンラン石と純粋斜長岩との共存サイトと、カンラン石のみを示すカンラン石サイトとの間には地質的な特徴の点で何も違いが見られないことから、これらのサイトの違いは、ピークリングを構成する物質の不均一によるものと考えられるともしている。

  • カンラン石サイト

    カンラン石に富む物質(緑色の領域)と純粋斜長岩(赤色の領域)が近く隣り合って分布する共存サイトの1例。(a)は鳥瞰図、(b)は(a)の破線で囲まれた領域にある共存サイトが拡大されたもの (出所:産総研 GSJ Webサイト)

これらの結果を踏まえ、研究チームでは、月の形成初期の原始地殻とその下のマントル上部との境界付近にあった物質が、巨大隕石の衝突によって掘り起こされた際に機械的に混合された結果、物質的に不均質なピークリングが形成され、その後の急斜面で起こったがけ崩れや小さな衝突の掘削により、共存サイトやカンラン石サイトとして月表面に見られるようになったとする。

  • カンラン石サイト

    衝突盆地周囲でのカンラン石サイト(赤丸)の分布(危難の海とシュレディンガー盆地の例)。黄色で囲まれたところが純粋斜長岩との共存を示す場所。大きな点線丸が衝突盆地のピークリングに相当する部分。背景は「かぐや」による地形データ (出所:産総研 GSJ Webサイト)

なお、今回の研究において詳細に調査解析された共存サイトは、月のマントル上部物質と原始地殻物質が同時に得ることが可能である科学的に重要な場所であることから、研究チームでは、将来のサンプルリターンミッションの候補地点の1つになることが期待されるとしている。