京都大学(京大)は2月7日、従来の反強磁性転移をしたのちに超伝導を示すのとは逆となる、局所的に空間反転対称性が破れている結晶に起因した超伝導相内部において実現する特殊な反強磁性状態を発見したと発表した。
同成果は、京大 理学研究科の木舩茉悠大学院生(研究当時)、同・尾方司貴大学院生、同・金城克樹大学院生、同・真砂全宏大学院生(現・島根大学助教)、同・谷口貴紀博士研究員(現・東北大学助教)、同・北川俊作助教、同・石田憲二教授、独・マックス・プランク研究所(MPI)の研究者らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する主力学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
物質の構造は、原子が規則正しく並んだ結晶か、ランダムに並んだアモルファス構造かに大別され、中には超伝導状態や磁気状態を実現する特殊な構造もあることが知られている。
結晶構造の分類方法も複数あるが、超伝導や磁性という観点から見た場合に重要な要素の1つが、空間反転に対する対称性がある(空間反転対称性がある)ことで、そうした空間反転対称性がある結晶構造を持つ超伝導体では、偶パリティのスピン一重項超伝導状態、もしくは奇パリティのスピン三重項超伝導状態のどちらかが実現される一方、空間反転対称性がない結晶での超伝導では偶パリティと奇パリティが混ざった超伝導状態になるとされる。ただし、いずれの場合も、1つの超伝導体につき、1つの超伝導状態であることが原則となっているという。
その原則が破れているのが、研究チームが今回の対象物質としたセリウムとロジウムとヒ素からなる「CeRh2As2」で、結晶構造自身は空間反転対称性を持つが、超伝導や磁気的性質に重要なセリウム原子を中心に空間反転をすると一致しない(セリウム原子サイトでは空間反転対称性がない結晶構造)という特徴を有することが知られている。これは、同物質の結晶構造中に特殊な対称操作で結びつく2種類のセリウムが存在していることを意味しており、このような特殊な結晶構造は、「もつれ結晶」と呼ばれることもあるという。
もつれ結晶を持つCeRh2As2では、2つのセリウム原子が別の超伝導状態になることが可能なため、2つの原子が同じ位相を持つ偶パリティ超伝導状態と、2つの原子で異なる位相を持つ奇パリティ超伝導ペア密度波状態との2種類が現れることが理論的に提案されているほか、2種類の超伝導状態は磁場をかけることで移り変わることがわかっており、近年、実際にMPIの研究チームが、CeRh2As2における2つの超伝導相の存在を実験で確認することに成功したことを報告している。こうしたもつれ結晶に起因した特異な超伝導状態を持つ同物質では、その磁気状態についても特異である可能性があったが、その性質は良く分かっていなかったという。
そこで研究チームは今回、CeRh2As2に対して核四重極共鳴実験を行うことで、超伝導相の内部に反強磁性転移が存在することを発見。反強磁性と超伝導が共存する物質では、ほとんどの場合に反強磁性転移したあとに超伝導を示す“反強磁性超伝導”状態であり、同物質のように“超伝導反強磁性”状態の報告は希少だという。そのため研究チームでは、この特異な磁気状態は、超伝導と同様、もつれ結晶に起因したものであると考えられるとしている。
なお、研究チームによると、今回の発見された特異な磁気状態は、もつれ結晶に起因した特異な超伝導状態と関係していると考えられるとしており、今後、この特性を活かした新たな超伝導デバイスの開発につながる可能性があるとしている。