米国政府商務省は、2020年12月18日に中国最大のファウンドリであるSMICをエンティティリストに追加登録し、10nmプロセス以下の半導体製品製造を禁止するための輸出規制を行ったものの、これでは不十分であると判断し、ほとんどの米国製半導体製造装置の輸出を規制する方向で検討を始めたと、SEMIワシントンD.C.オフィス駐在の弁護士であるJoe Pasetti氏が、SEMICON Japan 2021の一環として12月16日に開催されたSEMI Market Forumでの講演で述べた。

商務省産業安全保障局(BIS)は、SMICと中国の軍産複合体活動の関係を示す確固たる証拠が見つかったとして米国の国家安全保障を保護するために2020年12月より半導体製造装置輸出規制を行っている。具体的には、商務省は、「Department of Commerce Adds China's SMIC to the Entity List, Restricting Access to Key Enabling U.S. Technology」という声明を2020年12月18日に発表、その中で「Items uniquely required to produce semiconductors at advanced technology nodes—10 nanometers or below—will be subject to a presumption of denial to prevent such key enabling technology from supporting China's military-civil fusion efforts.」と明記。10nmプロセス以下の先端技術で半導体を製造するために必要な品目について、輸出許可申請を出しても拒否する見込みであるとしていた。

このためSMICは、10nmプロセス以下の半導体製品向け製造装置を購入できなくなったが、現在、SMICの製造の中心は28nmかそれより微細化の緩いレガシープロセスであり、世界的な半導体不足も手伝って2021年の売上高は前年比39%増ときわめて好調である。

そのため、これまでの米国政府の規制はSMICにとって何の制約にもなってはいない。EUV露光装置については、明確に10nmプロセス以下の製品を製造する装置であるため、購入のめどはたっていないが、それ以外の装置は14nmプロセス以上の半導体製造用ということにすれば、米国製製造装置であっても何の問題もなく購入できている。

このため米商務省は、16/14プロセスnm以下の半導体製品を製造する能力のある(capable of producing semiconductors at 16/14nm and below)装置の輸出を禁止する方向で検討を始めたという。トランジスタ構造が16/14nmプロセスからは、従来のプレーナー型からFinFETに移行することから、商務省は、SMICのFinFETへの移行を阻止しようとしているとみられる。弁護士でもあるJoe Pasetti氏によれば、商務省があえて“Capable of”という表現を使って規制をかけようとしている「16/14nmプロセス以下の半導体製品向け製造装置」には、28nmプロセス向けの装置であっても16/14nmプロセスを行える装置も規制対象になりうると解釈すべきだという。

SEMIは、かねてより自由貿易を阻害する米国政府の追加関税賦課や輸出規制に反対を表明しており、現在、商務省内部で検討されているSMICへの輸出規制強化に強い関心を寄せて監視していくとしている。米国半導体製造装置業界にとって、世界最大の市場である中国市場へのアクセスを制限されることは死活問題となるからである。

米メディアでもSMICへの輸出制限強化の報道

今回のJoe Pasetti氏の報告を裏付けるかのように、米バイデン政権は12月16日(米国時間)、SMICへの輸出制限強化の是非について複数の政府機関の高官らと非公式に話し合ったが結論は出なかったと米国メディアが報じている。半導体製造装置の対中輸出制限の拡大を同盟国と一緒に取り組む必要があるという点では見解が一致したという。バイデン政権は、最先端ではない半導体にも使用可能な製造装置についても輸出制限の強化を検討しているというが、ホワイトハウスは、これらの会合についてコメントを避けたという。