NXP Semiconductorは現地時間の11月9日、アプリケーションプロセッサ「i.MX 93シリーズ」を発表した。これ関してNXPジャパンより説明があったので、ご紹介したい。

「i.MX 93」は、「i.MX 9ファミリー」に属する新世代のアプリケーションプロセッサである(Photo01)。

  • i.MX93

    Photo01:ピン互換はこの後登場するi.MX 93ファミリーの中では当然であるが、今後のi.MX 9ファミリーに関しても検討しているとのこと。逆に言えば従来のi.MX 8ファミリーとの互換性はない

i.MX 93はそのi.MX 9ファミリーの最初の製品という位置づけになり、今後よりハイエンドの製品も予定しているそうだが、まずはエントリ向けモデルという形になる。

Photo02はi.MX 9ファミリー全体に通じる特徴であるが、アプリケーションプロセッサとリアルタイムプロセッサ、周辺回路とConnectivity、さらにセキュリティ対策としてのEdgeLockを搭載する。

  • i.MX93

    Photo02:Build-In MCUということでCortex-AとCortex-Mのヘテロ構成で、さらにAIアクセラレータとしてArmのEthos-U65を標準搭載する

この中でi.MX 93は、丁度i.MX RTクロスオーバープロセッサより「少しだけ性能が上」という位置づけにあたり、「より高速にRTOSを使いたい」あるいは「性能は低くても良いからLinuxを動かしたい」といったニーズ向けになるとする(Photo03)。

  • i.MX93

    Photo03:ちなみにi.MX 93よりさらに下のレンジ向けの製品が出ないとは限らないが、当面はむしろ上位向けを充実させてゆくとの事

また特徴的なのはArmのEthos-U65を搭載する事だろうか(Photo04)。

  • i.MX93

    Photo04:Ethos-U65はNXPのeIQでサポートされる格好となる。もちろんArmNNを直接使う事も可能だとは思うのだが

元々ArmがEthos-U65を2020年10月に発表した時に、最初の顧客としてNXPの次世代i.MXに組み込まれることがアナウンスされており、これが実現した格好である。ちなみにEthos-U65の構成は256MACs/cycleとの話であったが、今後上位機種では512MACs/secの構成があるかどうかははっきりしていない。また後述するFact Sheetによれば、NPUが無しの構成もあるようだ(同様にCortex-A55×1のものもあるらしい)。

セキュリティのEdgeLock(Photo05)そのものは以前からNXPが提供しているソリューションであるが、今回の目玉はそのEdgeLock Secure EnclaveがAzure Sphereに対応した(Photo06)事であろうかと思う。

  • i.MX93

    Photo05:EdgeLockにはセキュリティチップ単体のソリューションもあるが、それとは別にデバイスに組み込むEdgeLock Secure Enclaveも以前から提供されており、当然これもi.MX 9には搭載される

  • i.MX93

    Photo06:Secure Enclave内にPlutonのシステムを搭載している。なのでリアルタイム処理向けのCortex-M33をPluton向けに使ったりはしていない、との事

なおすべてのi.MX 93がAzure Sphereに対応しているわけではなく、Azure Sphere対応(つまりPluton搭載i.MX 93)は「i.MX 93-CS」という型番になっているようで、なのでi.MX 93-CSのRTOSはAzure RTOSで、それ以外のi.MX 93のRTOSはAmazon FreeRTOSで、といった使い分けになるのかもしれない。おそらくは今後登場するi.MX 9シリーズも、似たような感じになるのだろう。

i.MX 93に話を移すと、2つのCortex-A55によるApplication Domain、Cortex-M33ベースのRealtime Domain、それとEthos-U55ほか周辺回路を搭載するFlex Domainの3つに分割されており、それぞれ独立して電源管理などが行われるので、必要なDomainだけを稼働させることが可能で、省電力性を高める事が可能、とされる。

  • i.MX93

    Photo07:まだデータシートが出ていない(Fact Sheetのみ)ので断言はできないが、Power Domainそのものは4つに分かれ、この3つのDomain+周辺回路周りのDomainが、共通のI/O Bus(AXB?)で繋がる様な構成になっているようだ

Photo08がもう少し詳細な内部構成であり、ローエンドというにはちょっと贅沢というか、かなりリッチな構成になっていることが判る。

  • i.MX93

    Photo08:MCUを搭載しているとは言え、基本Application ProcessorなのでBoot用のFlashはOSPI経由で外部に接続するか、もしくはSDIO 3.0/eMMC 5.1 Flash経由となっている

1.7GHzのDual Cortex-A55というのは、ローエンドスマートフォン向けSoCのLITTLEコア側で良く見る構成であり、Androidベースの組込機器とかの実装も容易そうだ。MCU側は250MHz駆動のCortex-M33で、他にNPUとしてEthos-U65(動作周波数は不明)と2D GPU、Security、あとCamera I/FとAudio I/F、EthenetやCAN-FD、USB Type-Cを含むConnectivityなどが搭載される。

ちょっとスライドの順序が異なるが、民生・産業向けとしてのi.MX 93ファミリーの用途はこんな感じ(Photo09)。

  • i.MX93

    Photo09:2D GPUやLVDSは搭載されているので、簡単なKiosk端末とかスマート家電などには丁度適当だろう。ただタッチセンサーは内蔵されていないようなので、これは外付けの必要がありそうだ

i.MX 8シリーズとかi.MX RTシリーズがこれまで担ってきたターゲットにそのままシームレスに対応できるとする。またi.MX 93ファミリーは車載向けにも適用される予定であるが、それはECUなどの制御系ではなく、Photo10に挙げられている様に、コンソール向けに今後追加されるであろう要素向け、という位置づけになっている。

  • i.MX93

    Photo10:この車載グレードでは今後AEC-Q100の取得など必要なQualificationを完了させたうえで提供予定、との事であった

そのi.MX 93シリーズであるが、サンプル出荷は2022年後半を予定しているとの事であった。