ContractS、弁護士ドットコム、GVA TECHは11月9日、「契約システム3社特別対談!契約DX(デジタルトランスフォーメーション)全社導入の壁と乗り越え方とは?」と題したウェビナーを開催した。ContractSの津田奨悟氏が司会を務め、同社の安養寺鉄彦氏、弁護士ドットコムの橘大地氏、GVA TECHの康潤碩氏が契約にまつわるDXに関わるソリューションを全社導入する際のポイントについて意見を交わした。

  • パネルディスカッションの様子

--契約DXに関わるソリューションを導入する企業の傾向はあるのでしょうか

橘氏:スタートアップ企業や中小企業では、トップダウン型での導入が多いようです。一方で従業員数が1000名を超えている規模の企業では、従来の業務フローを大きく変更するのが難しいので、全社導入の前に1から2部門で試験的に導入する企業が多いようです。企業が使用するハンコは主に実印、丸印、角印の3種類ありますが、このうち角印は日常的に使用する頻度も高いので心理的にもデジタル化しやすいと思っています。

  • 弁護士ドットコム 取締役 クラウドサイン事業部長 橘大地氏

--契約DXのソリューション導入を支援する際の苦労はありますか

橘氏:数年前まで契約のデジタル化が進んでいなかったので、当社が提供しているWeb完結型クラウド電子契約サービス「クラウドサイン」の全社的な導入は考えられませんでした。紙と印鑑が主流の時代だったので、1社だけが導入しても取引先が対応できなかったからです。なので、とにかくどこかの企業の1部門だけでも導入してもらって、従来の商慣習に風穴を開けることが私たちのミッションでした。

現在は30万社に導入していただけるようになったので、特定の部門だけではなくむしろ全社への導入を勧めています。理由としては、せっかく1部門だけが導入しても他の部署での導入が進まないケースがたくさんあるからです。全社導入を実現するために、法務部門内だけでなく経営層も巻き込んで議論していただくようにアドバイスしていますね。

電子契約システムを全社導入するプロジェクトは、多くの企業にとって法務部門の方が経営層や他部門を巻き込んで進める初めての機会になるかと思います。他部門の方が「法務部が言ってるだけなのでやりません」「なんで法務のために頑張らなければいけないのか」と言っている事例も山のように見てきました。そうした観点からも、経営層を巻き込んで社内の権威を上手に活用することが大切だと思っています。

安養寺氏:その通りだと思います。もし社内で経営層に相談しづらい場合は、われわれのような企業をうまく使ってほしいと思います。「他社の例を見ても経営層の協力が不可欠ですよ」といった客観的なコメントができますので、ぜひ私たちを活用してください。

  • ContractS 執行役員 COO 安養寺鉄彦氏

また、全社プロジェクトのリーダーの仕事は意外と泥臭くて、関係部署との連携や精神的な苦労などが見えにくい場合が多いです。せっかくプロジェクトが軌道に乗って成功したにもかかわらず担当者が評価されないと寂しいですし、次回以降のプロジェクトに関わってくれる方も減ってしまいますので、上司や評価者の方には多少手厚めなくらいに評価して欲しいですね。

--GVA TECHは契約書レビューに特化したソリューションを提供していますが、レビュー機能を全社導入するメリットについて教えてください

康氏:法務部門の方の多くは契約審査で疲弊しているという声を多く聞きます。できれば現場レベルで一次判断をして欲しいと思っている方がほとんどなのではないでしょうか。「リスク管理のために全件チェックしたいけれど、全件チェックするほど時間と人に余裕がない」といったジレンマもあるようです。

  • GVA TECH 取締役 CLO/弁護士 康潤碩氏

法務部門がマニュアルや審査指針を事業部に配布している企業もあるようですが、現場の方がトレーニングを受けてマニュアルを参照したとしても、各自で判断するのは難しいのが現実です。当社が提供する契約審査アシスタント「AI-CON Pro」は、表記ゆれや条番号のずれに加えて、契約書の不足単語や文言の抜けによるリスクを指摘します。これを活用していただくことで、法務部門に集まる相談件数を減らせます。

先ほどお二人がソリューション導入のハードルについて話していたので、私も補足しますが、複数部門が関与するプロジェクトには部門間の反発が付き物だと思います。事業部担当者が契約書チェックを嫌がるケースもあるかもしれません。そのような場合は、契約書確認のレスポンスが速くなるなど、法務部門の業務負担が軽くなることのメリットを共有しながら、担当者レベルにも恩恵があることを認識していただければと思います。

--新しいソリューションを導入する過渡期において、書類によって従来のフローと導入したソリューションの2つの提出先に分かれてしまうことがあると思います。どのように対応したら良いでしょうか

橘氏:新しいソリューションを導入する際には、NDAなどの様式がある程度決まっている書類からの適用が進むと思います。そのため、書類によってフローが分かれるのは仕方がないとまずは受け止めることが大切だと思います。

DXにおいては「トランスフォーメーション」の部分が非常に大切だと思っており、過去に何年も採用してきたフローを急に0から100に変更はできません。必ず10、20、30と段階を経る必要があります。紙と電子の二重のフローが生じる前提で業務フローを組みながら、プロジェクトを進める必要がありますね。

康氏:私は、業務フローが二重になってしまう課題は、考え方次第で解決できるのかなと思います。業務フローが2つあるのではなくて、「契約書の確認を法務部門に依頼する、しない」のように分岐の問題と考えると、二度手間には感じないでしょう。並行する業務が二重に生じているのではなく、あくまで業務フローに分岐が生じるのだと説明することで、現場担当者は仕事がしやすくなるのではないかと思います。

--最後に、これから契約業務のDXに取り組もうとしている法務部門の方にアドバイスをお願いします

橘氏電子契約は自社内で完結するものではなく取引先にも影響が出ます。昨年から続くコロナ禍においては、電子契約によって出社の必要がなくなるといったメリットも発揮できるはずです。アドバイスというよりもお願いになってしまうのですが、今後の社会を良き社会にしていくためにも、われわれのような企業にできることから協力させていただきますので、お声がけください。

康氏:他のお二人がおっしゃっていたように、法務部門の方が全社を巻き込んで主導するDXは非常にハードルが高いと思います。中長期的な視点になってしまいますが、プロジェクトを成功させた先に待っている未来は非常に良いものだと信じています。繰り返しになってしまいますが、頼っていただければ私たちがお手伝い致しますので、勇気を持ってプロジェクトを進めてほしいです。

安養寺氏:契約DXの全社導入はもちろん大変なプロジェクトなのですが、これまで多くの企業が成功させています。それぞれ異なる課題が生じるかもしれませんが、一つ一つ解決していくことで法務のDXは必ず成功すると思っています。どれだけ小さな点でも構いませんので、本日参加している3社に気軽にご相談いただけたら嬉しいです。

  • 司会を務めたContractS 経営企画部 部長 津田奨悟氏