続いては、「データ立国論」などの著書がある、データ・サイエンティストで慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏と丸岡氏の、「データ共鳴社会を実現する社会・産業DX」と題する対談だ。

  • 慶応大学の宮田教授(右)

科学で社会をより良くするとのコンセプトを持つ宮田氏は、その核がデータであり、データの力で新しい未来を目指せるのではないか、また今後の社会は人と人、人と世界をどうつなぐかが軸になると提言する。

これを受けて丸岡氏は、自社の理念は人と世界の可能性をひらくコミュニケーションの創造だと語った。Re-ConnectXではデータの重要性が背景だという丸岡氏は、「データを統合的に扱えるよう、SDPFの構築に取り組んでいます」と現状を語る。

Smart Worldとデータ共鳴社会の関連性

自著で「データ共鳴社会」を提唱する宮田氏は、これまでSDGs(持続可能な開発目標)にもある「誰も取り残さない社会」は実現困難だったが、「個々人に寄り添いながら誰も取り残さないことを、効率性を犠牲にせず実現できる社会を目指せるのが、1つの事例です」と説明した。

丸岡氏は、同社がSDPFで社会に還元するSmart Worldの取り組みが、それに近いという。

例えばSmart Educationでは、GIGAスクール構想に対応してクラウド型の教育プラットフォーム「まなびポケット」を提供し、児童・生徒個々に合わせた学習に加え、社会的な関係性などもサポートできる教育を進めていきたいと、丸岡氏は語る。

  • Smart Worldの目指す社会

また丸岡氏は、データの利活用は企業内にも非常に有効だとする。例えば社内チームの結成やプロジェクト発足時において、最適な人材のマッチングに有効ではと考えているという。

共有を進めるほどデータの価値は上昇する

データ共鳴社会のその他の特徴について宮田氏は、従来の資源とデータの大きな違いとして、使っても無くならないことと同時に使えることと、データは共有により価値が上がっていく特性があることを挙げ、実例として新型コロナワクチン開発期間の大幅な短縮を挙げる。

医療データの利活用に関して丸岡氏はSmart Healthcareにおける秘密計算を紹介し、金融データなども秘匿したまま分析可能とする取り組みを進めていると語った。

宮田氏は、データの利活用ではギブ・アンド・シェアが最も大切であり、信頼を積み上げていくことが重要だという。NTT Comのプライバシー関連技術やクラウドの仕組みは、価値の高い取り組みだと見解を示した。

丸岡氏は、トラストの概念が強くなった背景の1つに、EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)があると指摘し、その影響で各国や企業がデータの保護への関心を高めたという。 GAIA-Xとの相互接続実証実験も、そうした流れの中にあるとのことだ。また、コロナ禍によるサプライチェーンの分断が問題化する中で、グローバルなデータのやり取りの重要性が増すと見る丸岡氏は、その施策を進めていきたいと語った。

データ共鳴社会が都市の形も変えていく?

Smart Cityの取り組みに関連して宮田氏は、今後EV(電気自動車)のシェアリングが進むと、エネルギーの地産地消や自動運転による移動時間の有効利用が進むとの予想を示す。 将来は駅から遠い土地の価値が上がり、Smart Cityで領域を超えつながっていくことで、都市の形が地域によって多様化すると見る宮田氏は、Smart Cityの可能性に期待した。

丸岡氏は、東京・品川にNTTの関連企業が集まっていて「品川街区」と通称しており、そのスマート化を進める動きを紹介した。 場所によりスマート化の形態は多様なため、さまざまな企業などとの協働の重要性も指摘する。

宮田氏は、データを活用した社会や産業の未来図を、「自分がどう生きたいのか、何を大切にするのかが先にあり、そこから主体的に世界とつながっていく、コミュニケーションの本質が関わっていく時代になると考えています」と語った。

コロナ禍による世界の変化では、世界は持続可能であるべきだと多くの人たちが考え始めたことと、デジタルの力を多くの人が実感できたことの2点を挙げた。

今後の働き方について、丸岡氏は個々のウェルビーイングが重要だと語る。 同社ではフレキシブル・ワークスタイルの検討を進め、社内での議論を重ね新しい働き方にも挑戦し、社会への貢献を考えているという。

  • フレキシブル・ワークスタイル

コロナ後の社会では「ウェルビーイング」がキーワードに

対談のまとめとして、宮田氏は「ウェルビーイングを大事にしながら、人と人、人と世界をどうつなげるかのコミュニケーションが、大事になると思います。それをどう変えていくのかが最も大事な要素になると考えますし、今日、皆さんのチャレンジをうかがって、未来に向けた希望を感じました」と総括した。

丸岡氏は、「コミュニケーションの質をどうするか、ウェルビーイングをどうつなげていくかという意味で、データが駆動する未来のイメージが見えてきました。当社はデータを駆動する立場でもありますので、ご視聴の方々と一緒に、新しいデータで共鳴する社会をしっかりと作っていきたいと、気持ちを新たにしました」とまとめた。