NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は10月20日に、オンラインイベント「NTT Communications Digital Forum 2021」を開催した。本記事では、同社代表取締役社長 社長執行役員の丸岡亨氏による基調講演と、同氏と慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏との対談の内容を紹介する。

  • NTTコミュニケーションズ代表取締役社長 社長執行役員の丸岡亨氏

    NTTコミュニケーションズ代表取締役社長 社長執行役員の丸岡亨氏

本イベントのテーマは、サステイナブル(持続可能)な未来に向けた同社の社会・産業DX(デジタル・トランスフォーメーション)であり、同社は2020年10月に事業ビジョンである「Re-connectX」を策定した。

「社会の変容に応じてさまざまなモノをつなぎ直し、新しい価値や社会に適用できるモノを実現することでサステイナブルな未来へつなげていきたいとの思いを込めました」と、丸岡氏はその意図を説明する。

今後はNTTドコモやNTTコムウェアとも連携を強化して、より高いDXを実現していきたいという。

ユーザー企業のICT投資意向では、アフター・コロナを見据えた事業の改革を進めていく意向と、地球環境保護への意識の高まりがあるという。

社会全体としてはSX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)の実現を進める流れがあり、同社は社会・産業DXの実現で対応するとのことだ。

3つの柱で社会・産業DXを推進

同社は、「ICTのトランスフォーメーション」、「Smart Data Platform」(SDPF)、「Smart World」の3本柱でDXを進めてきたという。

その担保には、データの共有、トラスト(信頼)、共創が要件だと丸岡氏は説く。 これらを踏まえつつ、事業展開を進めていきたいとのことだ。

  • 社会・産業DXに向けた3つの柱

2番目の柱であるSDPFについては、Smart Worldに適用する形で再構築を進めているという。City(街)、Factory(工場)、Education(教育)など全てのモノ、すなわちX(エブリシング)に対応するSDPFを構築しようとの発想だ。

  • Smart Data Platform for X

丸岡氏は、その裏には「トータル マネージド&セキュリティ」があると語る。同社が実践から得たノウハウを、ユーザーへ一体的に提供していくとの考えだ。また、プラットフォームの強化も併せて進めていくという。

  • トータル マネージド&セキュリティ

Smart World実現に向けた3つの取り組み

同社はSDPF for XをベースとするSmart Worldの取り組みをパートナーなどと進めており、丸岡氏は3つの事例を紹介した。

1つめのSmart Cityは、名古屋市の久屋大通公園における事例だ。カメラの映像をAI(人工知能)で24時間分析し、見守りや防犯などに生かしているとのことだ。リアル/バーチャル相互の送客や顧客体験の創造なども、進めていきたいという。加えて「CROSS LAB for Smart City」を2021年4月に開設し、丸岡氏は参加を呼びかけた。

  • Smart Cityが目指す未来

Smart Factoryについては、工場内のデータに加えて、サプライチェーンからも見ていく必要があると丸岡氏は指摘する。まず脱炭素を見据え、廃棄プラスチックのサーキュラー・エコノミーに取り組んでいるという。

  • Smart Factoryが目指す未来

また、欧州統合データ基盤プロジェクトである「GAIA-X」と相互接続し、共通ルールの中でデータ流通や保護を行う実験を進めているとのことだ。

  • GAIA-Xとの相互接続

Smart Healthcareに関連して、丸岡氏は多くのデータを集めることで分析の精度が上がり、新型コロナのワクチン開発にも役立ったと語る。一方で、医療データの利用に抵抗を持つ人もいると指摘する。そのため同社は秘密計算を開発し、その協業を進めているという。

  • Smart Healthcareが目指す未来

具体的には、秘密計算システムとディープラーニング(深層学習)を組み合わせて多様な研究を進めているという。丸岡氏は、個人の臨床研究データを秘匿したまま分析・AI学習でき、新しい治療法の開発や新薬の開発にも生かしていけると語る。

  • 秘密計算ディープラーニング

さらに、コロナ禍の自宅診療を含むオンライン診療の取り組みも進めているという。

  • オンライン診療システム

エッジ・コンピューティング向けの機能拡充を予定

丸岡氏はSDPFとのエッジ・コンピューティングとの関連も紹介した。 今後はエッジ・コンピューティングが重要さを増すため、同社は「Managed SDPF Edge」を2021年10月以降に機能拡充していくとのことだ。

  • エッジ・コンピューティングにおけるSDPF

IOWNなどを通じた環境対策

話題は、同社の環境対策に移る。丸岡氏はまず、自社のサプライチェーンを通じたCO2排出量の削減として、Green of ICTを紹介した。

その1つが研究開発であり、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想をベースとするAll-Photonics Networkでデータセンター内やデータセンター間を結び、通信の高速化と省電力化を進めたいという。グリーン調達の拡大や再生可能エネルギー比率の引き上げにも取り組んでいくとのことだ。「2030年にはデータセンターおよびネットワークのカーボン・ニュートラルを実現する方向で、事業展開を進めていきたい」(丸岡氏)。

  • Green of ICT

丸岡氏はまた、Green by ICTの取り組みにも触れた。社会やユーザーのグリーン化への貢献であり、データセンターにおけるグリーン電力の提供やIOWNデータセンター(仮称)などを例示した。

  • Green by ICT

コロナ後を見据えたワークスタイル変革

講演の最後のテーマとして、丸岡氏はワークスタイル変革を取り上げた。

同社では、制度・ルール、環境・ツールの整備、社内ミーティングを通じた風土・意識の改革の3点から変革し、現在もリモートワーク率は80%以上を維持、社員の満足度も上がってきたという。加えて、紙やCO2の削減でも実績を重ねてきたとのことだ。

  • ワークスタイル改革

丸岡氏は、アフター・コロナ社会では、場所や時間にとらわれない働き方を自ら選択をする、フレキシブルでハイブリッドなワークスタイルを実現したいという。

オフィスのあり方も変化するため、同社はオフィスの効率化と共に、「OPEN HUB for Smart World」プログラムを10月20日に開始した。また「リアル×バーチャル」の場として2021年2月、東京・大手町にワークプレイスを開設する予定だ。

丸岡氏は「このワークプレイスで、皆様とお会いできる日を楽しみにしております」と呼びかけ、講演を締めくくった。