2021年7月13日から2021年10月3日にかけて、国立科学博物館(科博)で企画展「加速器 -とてつもなく大きな実験施設で宇宙と物質と生命の謎に挑んでみた-」が開催されている。同企画展は加速器の名称とビジュアルはとてもカッコイイが、何をやっているかとなると、いまいちピンとこない部分から押さえた内容になっており、大人だけでなく子供も楽しめる内容であるのが特徴だ。
また日本館1階企画展示室と地球館地下3階常設展示室内に渡って展開されているため、概要を知ったのちに実物を見るという流れになっている。本稿では10年ほど加速器を撮影している視点から、オススメポイントに触れつつ、企画展の概要をレポートしていく。なお国立科学博物館は2021年7月19日時点では、入館には予約が必要となっているので注意が必要だ。
加速器展は第1会場が日本館1階企画展示室、第2会場が地球館地下3階常設展示室となっている。上記の通り、順序立って構成されており、第1章「加速器ってなんだ?」からスタートする。加速器は荷電粒子を加速する装置のことで、素粒子実験のほかに、がん治療や材料開発などにも使用されており、基本的に巨大だ。ジュネーブにあるCERNの大型ハドロン衝突型加速器は全周27kmであり、なにかしらで聴いたことがある人も多いハズ。ともあれ、電磁石と検出器で構成され、ほとんど電磁石といったイメージでもいい。
用途は意外と幅広く、素粒子同士を衝突させるほか、イオンを加速したり、ほぼ光速のビームが曲がる際に生じる放射光を利用した分析、医療では重粒子線がん治療装置(HIMAC)などがある。国内で見ると高エネルギー加速器研究機構(KEK)やJ-PARC、SPing-8、理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センターがわかりやすい例になる。直近ではニホニウムの生成、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの試料分析での使用がわかりやすい。
第1章から第3章までは加速器に関する知識や部材の紹介が多い。加速器自体は多くの電磁石が並ぶ写真や検出器などでサイズ感を体感できるほか、第2会場には実機展示もある。以下、かいつまんで説明するが、ヒッグス粒子の研究には高いエネルギーが必要であり、その分施設は巨大になる。上記のCERNがいい例であり、エネルギースケールのグラフが面白く感じた。
実物の展示としては第1会場には、超伝導磁石のスライスやビーム位置モニター用検出電極、電子・用電子加速器用加速管カットモデル、T2K実験で使用されている黒鉛ターゲット、自転車、ヒッグス粒子発見の論文、かつて使用されていた記録媒体などと豊富だ。それぞれに解説が用意されており、歴史的な背景を辿りつつ、最新の研究へと導線が張られている。
第2会場地球館地下3階常設展示室の方は常設展示室になるが、一部、今回の企画展に併せて運び込まれたモジュールもあり、見応えがある。また第1会場を経由した場合は、基本的な知識がある状態で、より展示を楽しめるといった具合だ。常設展示室には、1956年ごろに開発されたシンクトロン用電磁石や発電機のほか、1990年ころに運用されていたトリスタン加速器の超伝導加速空洞、J-PARCで使用されている水銀ターゲット4号機があり、順路に従って進んでいくと、ハードウェア的な歴史を体験しつつ、最後にBelle実験で使用された中央ドリフトチェンバーに到着する。中央ドリフトチェンバー内で加速されたビームが衝突し、その様子を観測するという加速器の目的のひとつがわかりやすい流れだ。巨大な装置を使用するのに対して、研究対象が目に見えない世界であると説明が難しいカテゴリになるが、本企画展ではキレイに落とし込んでいる。
BelleおよびBelle II測定器は8m×8m×8mで、展示されている中央ドリフトチェンバーは外半径88cmと巨大だ。Belle II検出器のサイズ感がわかる展示が薄めであっため、以下で補完してほしい。
企画展「加速器 -とてつもなく大きな実験施設で宇宙と物質と生命の謎に挑んでみた-」は2021年10月3日までとなっている。上記しているように、加速器とはなにかがわかりやすく纏まっており、名前だけは聞いたことがあるくらいの人でも楽しめる。また今年もオンライン開催となりそうだが、KEKやJ-PARCの一般公開の予習にもほどいいだろう。