習近平主席が劉鶴副首相を第3世代半導体の開発責任者に指名

米国によるさまざまな形の半導体に対する制裁が中国に対して行われる一方、中国政府は国内の半導体メーカーを支援する施策を進めることで、半導体の自給自足を目指そうとしている。そうした状況の中、習近平国家主席は、最側近の1人である劉鶴副首相を第3世代半導体の技術開発に対する陣頭指揮ならびに資金面および支援策策定の責任者に充てた模様だと米Bloombergが伝えている

中国の情報筋によると、劉氏は自前の半導体設計ソフトウェアや露光装置の開発を含めた、従来の半導体製造を置き換える可能性があるプロジェクトも監督する立場にあるという。

ちなみに第3世代半導体とは、SiCやGaN、酸化ガリウム(Ga2O3)などの次世代材料を活用した半導体を指す言葉で、第1世代はトランジスタ発明・勃興期に広く使われていたGeやその後、メモリやCPUなどに広く使われるようになったSiを指し、第2世代はIII-V族半導体であるGaAsやInPを指す。

SiCやGaNを中心とする第3世代半導体は、各国・各半導体メーカーが開発競争を繰り広げており、現在、どこもまだ支配的な地位を確立していない。また、大電流を扱うパワー半導体であるがゆえに、米国が規制しようとしている微細なプロセスを必要とする分野とは無縁な領域である。このため、中国にとっては米国やその同盟国による制裁をかいくぐる有望な機会の1つとなると考えられるという。

さらに、中国政府にとっては、第3世代半導体を優先的に実用化したい事情もある。中国は、自国の持てる技術を結集させ、いわゆる「スマートシティ」の実現に向けたインフラ整備を進めており、国内の近代化に加え、それを一帯一路に売り込んで外貨を稼ごうとしている。日本でも、トヨタ自動車が、閉鎖した自社工場跡地で実験的なスマートシティの建設を進めているが、中国の場合は国家事業ともいえる規模となっている。

すでに「新基建(New Infrastructure Plan:新たなインフラ計画)」と呼ばれる国を挙げたインフラ整備のプロジェクトもスタートしており、「5Gネットワーク」、「産業用インターネット(IIoT)」、「高速鉄道」、「データセンタ」、「AI」、「超高圧グリッド」、「EV充電ステーション」という7つの分野に焦点が当てられている。この国家プロジェクトの実行で、中国の国内半導体産業、とりわけパワー半導体に多大なビジネスチャンスをもたらすことが期待されており、ここで従来のシリコンパワー半導体ではなく、第3世代半導体を採用できれば、高耐圧化、高周波数化、高電流化、小型化などの点でシリコンパワー半導体よりも優れた性能を発揮でき、海外販売の際の競争力を増すことも期待されている。

  • SEMI China

    中国半導体産業の新たな市場機会。中国政府のインフラ整備事業によって、最終製品市場における半導体需要の増加が見込まれている (出所:SEMI China)