カゴメと聞くと、トマトジュースにケチャップと「トマト」の会社というイメージが真っ先に浮かぶのではないだろうか。ブランドも定着し、安定したビジネスを進めてきたカゴメだが、さらなる成長を目指し、トマトの会社から野菜の会社に躍進するため、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。
今回、5月に開催されたAWS Summit Online 2021でDXに関する講演を行ったカゴメアクシス 業務改革推進部 DXグループの村田智啓氏に、カゴメのDXについて聞いた。
伝統と安定の殻を破るためにDXに着手
講演で、村田氏は「100年以上歴史を持つカゴメは、築き上げてきたブランド力に安住し 、 現状を維持する形で仕事をしています。しかし、今後人口の減少によって需要の縮小が見込まれる一方、食に対する価値観も多様化しています。つまり、カゴメにとって現状維持は衰退を意味します。そこで、われわれが既存顧客以外へのタッチポイントを増やしてトップラインを上げていくには、デジタル技術を活用したDXが大事な要素になります」と語った。
こうした背景の下、カゴメでは2018年に発行した「DXレポート」において、「継続だけでは、売上が中長期的に下がる」ことに言及したことを契機にDXの推進がスタートした。
カゴメでは、DXを守りと攻めの両面から推進している。守りとしては、「基幹システムの刷新」「業務効率化を目的としたSaaS」を実施した。あわせてIT戦略として、 VPNを必要とするシステムの低減、ビデオ会議ツールの活用、テレワーク勤務制度に取り組んでいたが、これらが整備されていたことで、緊急事態宣言が発令された時、スムーズにテレワークへ移行できたそうだ。
次のステップが攻めとなる。DXを進める際、リーダーとなったのが取締役専務執行役員を務める渡辺美衡氏だ。渡辺氏は、AWS Summit Onlineの講演の中で、「守のレベルを上げつつ、攻める力もつけるには、働き方を変えるしかない。それには、ITの力を借りて生産性を上げ、クリエイティブな仕事に多くの時間を割けるようにする必要があった」と語っていた。
容易ではなかったトップダウンの道筋作り
DXを成功させるための要素として、「トップダウンで進めること」を挙げる企業は多い。カゴメでも、渡辺氏が先頭に立ち、経営層に意識の変革を促しつつ、DXを進めてきた。しかし、それは簡単なことなのだろうか。村田氏に聞いてみたところ、「実のところ、大変でした」と語る。
DXに反対をする人はいなかったけれど、DXを理解する以前に、DXがどういうものかが浸透していなかったという。また、DXを推進するにあたり、通常の業務をどう変えるかということも課題となった。
そこで、渡辺氏はAmazon Web Services(AWS)の本拠地であるシアトルにまで足を運ぶなどして知識を深め、自身がDXを精通しているという強い意志を持って、経営層の説得に当たったそうだ。
渡辺氏は、「AWSは『 もっと良くなれる』『もっと先に行ける』と気づかせてくれました」と語っていた。