米Xilinxは5月14日(日本時間)、CEOのVictor Peng氏直々に同社のビジネスの状況を説明するという説明会をオンラインの形で実施した。

実はこうした機会、今まではほとんど存在しなかった。もちろん何かの折にCEOが来日すれば、それにあわせて記者説明会を行うといった事はしばしば行われてきたが、日本の報道関係者向けにCEOが直接説明会を行う、というのはかなり異例である。

というのは別に日本だけでなく、他の国向けにも同様な説明会を行う事を意味しているからだ。もちろんPCと異なりFPGAだから、対象となるのはそれなりに製造業が盛ん(で、かつXilinxがオフィスを置いている)国に限られるが、同社の場合だと欧州に3拠点(ただしUK×2、Ireland×1なので、実質英国のみ)、アジアに7拠点(ただし、うち4つは中国なので、実質中国・シンガポール・インド・日本の4か国)である。という事は少なくとも5回(欧州・中国・シンガポール・インド・日本)向けに説明会を行わねばならない。

にも拘わらずこうした発表会を行った理由はいくつか考えられるが、1つは同社の組織変更にあるだろう。従来だとこうした説明会は、各地域のカントリーマネージャ(昨年までで言えばSam Rogan社長)が担当していた。それぞれのカントリーマネージャは自分の担当地域のすべての売り上げに責任を持っているという割と当たり前の構成であり、なので各マネージャは自分の地域(と全社的な動向)のすべてを把握していた。ところが昨年、同社は、こうした地域別の組織を解消。新たに業種別の組織に切り替えた。この結果として、従来のカントリーマネージャにあたる職は無くなっており、例えばWired & WirelessやAutomotiveといったそれぞれの業種別のカントリーマネージャが、必要に応じて各地域に配されるという形になっている。こうした結果、全体の業績について責任をもって語れる人間が、本社のExectiveのみになってしまったのは想定の内だったのかどうかは判らないが、結果としてCEO自ら細かい状況を説明してくれるというありがたい説明会になった。

各分野で成長が続くXilinxのソリューション

さて、今回の説明会はまず5Gから説明に入った(Photo01)。

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    Photo01:O-RAN周りはこちらでも触れたので割愛

もともとここ数年、Zynq UltraScale+ RFSoCZynq RFSoC DFEなどの5G向け製品を強化しており、また今年4月にはVersal AIの量産出荷を開始するなど順調に製品層が厚くなっている訳だが、この結果としてDesign Winも順調に増えており(Photo02)、またMassive MIMOの無線パネル向けのDesign Winも期待できる(Photo03)。

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    Photo02:ここで富士通とSamsungが入っているあたりが、今回日本向けに発表会を行った理由の1つに挙げられるだろう(韓国も従来は日本オフィスでマネジメントしていた)。言うまでもなくHuaweiの穴を両社が埋めている訳だ

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    Photo03:元々Massive MIMO向けにはVersal AIシリーズが最適と同社は説明しており、このパートナーシップはVersal AIの大口Design Winとなる可能性が高い

Peng氏によれば、同社は2018年から2020年で、通信(Wired & Wireless)分野の売り上げを14%伸ばしており、またこの1年でおおよそ1億個のZynq Ultrascale RFSoC/RFSoC DFEを出荷しているとの事で、引き続きこのマーケットでの売り上げ増加を目指すとした。

では他の分野は? というと、AutomotiveではADAS向けに8000万ユニットのFPGAが出荷され、ISMも10%未満とは言え確実に売り上げが成長中、A&D(Aerospace&Defence)もまた急激に売り上げが伸びているとしている(Photo04)。

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    Photo04:先日発表のKria SOMでISMの売り上げ増を見込んでいる模様

こうしたマーケットに今後貢献すると見られているのがモジュール類で、AlveoとかSmartNIC、Kria SOMがデータセンターやEdge向けにさらに広範に使われることを期待しているとした(Photo05)。

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    Photo05:これまでのXilinxのビジネスはあくまでチップ売りであり、モジュールはパートナーが提供する形の棲み分けが出来ていたが、この境が段々崩れてきている、という事でもある

もう1つ同社が強みとしているのはソフトウェア開発環境の充実である。Vivado/Vitisの組み合わせに加え、Zynq Ultrascale+ MPSoCやVersalシリーズは原則Armコアを搭載しているから、ソフトウェア開発者やAI開発者であっても比較的簡単に扱える(Photo06)。

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    Photo06:あくまでも「比較的」という話ではあるが

これらはアプリケーション構築の際には非常に重要な話であって、RTLを書けるエンジニアの数がそう多くなくてもアプリケーションの高速化が容易になる、というか容易に出来る様に開発環境を充実させている(Photo07)。

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    Photo07:そろそろ「AIが高速に処理できます」という話から、「AIを組み込んだアプリケーションを高速化できます」という、一段進んだ最適化の話になってきた

特にこれが顕著なのが今年4月から量産出荷を開始したVersal AIに搭載されたAIエンジンで、Zynq Ultrascale+ MPSoCに比べて大幅な高速化が可能になるとしている(Photo08)。

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    Photo08:FPGA Fabricで処理するよりも専用アクセラレータを使った方が性能/面積と性能/消費電力の両面で当然高効率となるのはある意味当然である

ただ既存のZynq Ultrascale+ MPSoCであっても、アルゴリズムの改良で性能が改善できる場合もある(Photo09)とし、引き続きソフトウェアの改良に努めるとしている。

しばらく7nmが活用されるVersal

ところでチラ見せの形で出てきたのがVersalの今後のロードマップである(Photo10)。

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    Photo10:「特別なDSA(Domain Specific Architecture)」というあたり、それこそDFE対応DSAとかが搭載されても不思議ではないからだ

今はAIE(AI Engine)の第1世代であるが、第2/3世代のAIEは同じノード(つまりTSMC 7nm)を使う事を明らかにした。ということでより微細化したノードに移行するのは第4世代ということになる。もっともこの第2/3世代がそれぞれVersal 2/3になるのか? というとこれも怪しい。元々Versalは6種類がアナウンスされており、現在はこのうちAI CoreとPrimeのみがリリースされている格好だ。なので例えばAI Edge向けが第2世代、AI RF向けが第3世代となる可能性もある訳で、このあたりは情報が出てくるまでもう少し時間が掛かるだろう。

最後にデータセンター向けの話を。こちらはすでに拡大期に入ったとしており(Photo11)、実例としてAWS AQUA(Photo12)やAzure Synapse Analyticsの高速化(Photo13)などが示された。

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    Photo11:Samsungの「SmartSSD」が入っているのは、コントローラにKintex Ultrascale+を搭載しているためである

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    Photo12:AWS AQUAは今年4月に一般提供を開始した、Amazon Redshift向け高速キャッシュ

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    Photo13:現状はApache Sparkの一部の処理が高速化されているだけにも見えなくはないが、全体としての効果は実際に詳細が公開されたときに明らかになりそうだ

ということで、今のところXilinxの成長戦略は当初の予定通り進んでいるというのがPeng氏のメッセージである。ただ同社は今年中にAMDとの合併(というか、AMDによる買収)を控えている事もあり、AMDとのコラボレーションがどういう形で進んでゆくのか、が気になるところではある。ただ今の段階でこれを問うても仕方ない話で、まずは買収が成立するかどうか(中国の規制当局の対応がやはり最難関になりそうではある)を注視したいところだ。