米国半導体工業会(SIA)CEOおよび理事会幹部は3月18日(現地時間)、米国商務長官ジーナ・ライモンド氏と会談後、両者から会談結果に関する声明が発表された。しかし、その内容からは微妙な温度差を感じることができる。
ライモンド商務長官は、「アメリカの半導体の革新と製造の重要性について、SIA理事会メンバーと生産的な会議を行った。半導体はアメリカで4番目に大きな輸出品であり、経済競争力と国家安全保障にとって重要である。(中略)バイデン政権は、半導体を国内で強化しなければならない重要なサプライチェーンと見なしている。大統領が言ったように、米国はこの技術の発祥の地であるが、他の国々が私たちから学び、業界への投資を増やしている間、私たちは長年にわたって生産に対する投資を減らしていった結果、革新的な優位性を損なってきた。商務長官として、半導体不足と闘い、半導体の米国での製造に投資することが私の優先事項である」と述べている。
一方、SIAのプレジデント兼CEOのJohn Neuffer氏は、「ライモンド長官と会談し、国内の半導体製造と研究への連邦投資や世界市場へのアクセスの確保など、米国のチップ産業の競争力を強化し、経済全体の成長と革新を促進する政策について話し合えたことに感謝する」と述べている。
商務長官の声明は、米国の国内半導体への連邦投資一点張りなのに対して、SIA側は、それに加えて「世界市場へのアクセスの確保など経済全体の成長を促進する政策」についても話し合ったと述べている。
米中貿易戦争下で中国への輸出規制について、さらなる強化を図りたい米国政権の施策実行の責任を負う商務省長官が、米国企業の中国市場へのアクセスの確保要請に応じるのは難しいだろうが、かといって中国市場への輸出を遮断しまえば米国企業がビジネスチャンスを失い、業績が悪化する懸念があることから、なんとか米国内の市場をさらに活性化して、中国向けの売り上げを吸収できないものかと苦慮している。
SIAやSEMIは、米国政府が半導体製造と研究に対する連邦投資を増額するよう要請するとともに、商務省の中国企業制裁措置を始めとする自由貿易を阻害する政策に何度も反対を表明してきた。2020年8月の商務省による半導体輸出管理規制強化に反対を表明するSIA声明の中では「中国への商用半導体製品の販売が、ここ米国での半導体の研究と革新を推進する役割を担っている」とさえ主張しているほどである。
日本では、米国政府の見解を中心に報道されていることが多いため、多数の業界団体が米国政府の輸出規制措置に強く反対していることがあまり報じられていない。しかし、米国において、半導体はじめとする多くの産業分野からは、世界最大かつ成長著しい中国市場への販売を規制されることは死活問題であるという声があがっている。そのため米国政府も、こうしたさまざまな業界からの反対の声にあって、Huaweiへの半導体輸出やSMICへの半導体製造装置の輸出を全面的には禁止できない状況となっており、抜け道(loophole)を通して米国半導体サプライヤや半導体装置メーカーの中国向け売り上げが増加している模様である。