宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月4日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者説明会を開催し、キュレーション作業の状況や最新の論文成果などについて説明した。同探査機は2020年12月に地球に帰還。現在、回収したサンプルのカタログ化が進められているところだが、この論文は、小惑星リュウグウでの観測結果をもとにしたもの。
拡張ミッションではスラスタBも投入
はやぶさ2に関する記者説明会は、今回が2021年の第1回目。まずは吉川真ミッションマネージャから、同探査機の現在の状況について説明が行われた。
同探査機はイオンエンジンの運転を1月5日より再開。スラスタB/C/Dを使った3台運転で、1台あたりの推力は8mN程度に抑えられているという。はやぶさ2では、イオンエンジンの推力が10mNに強化されているのだが、推力を抑えたのは効率を重視し、推進剤の消費を最小にするためだ。
1つ注目したいのは、今回の3台運転ではスラスタBが使われていることだ。これまで、スラスタBはバックアップ用として温存されてきており、累積運転時間もスラスタA/C/Dに比べると圧倒的に短かったのだが、この先の拡張ミッションは10年半と長い。「すべて必要になるだろう」(吉川氏)ということで、今後はスラスタBも調子を見ながら活用していく。
イオンエンジンによる動力航行は、1月5日から1月31日までの間で、577時間(=約24日間)実施。今後、11月頃まで断続的に運転し、その後、しばらく休止する予定だ。
はやぶさ2は、リュウグウへの往復では大きなトラブルもなく、順調な旅路であったが、今後、気になるのは太陽への接近だ。太陽までの距離は、1月30日の時点で0.853au。これは同探査機としては最短距離で、初号機も含めた記録を更新中。3月中旬には0.8au程度まで接近する見通しのため、高熱の影響が出ないか気がかりなところだ。
またサンプルのキュレーション作業の状況については、JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系の臼井寛裕教授より説明があった。前回までに、A室~C室のすべてを開封し、中の様子が明らかになっていたが、その後、まずA室のサンプルを観察用の容器に移動し、光学顕微鏡での撮影と重量測定を開始したという。
A室(1回目タッチダウンで使用)のサンプルは量が多かったため、3皿に分けて観察。それぞれ、重量は0.79g、1.15g、1.16gあり、合計は3.1gだった。3室の合計では約5.4gであることがすでに分かっており、A室の方がC室よりもかなり多かった計算になる。これは、A室の容量がC室の2倍ほどあることが理由ではないかということだ。
キュレーション作業は今のところ順調。臼井氏はサンプルの印象について、「色が黒いのは予想通りだったが、驚いたのは、かなり硬い物質であるということ。リュウグウでの観測から多孔質ではという予測もあったが、実際に摘まんだ感じだと、穴が多くて崩れるようなものでなく、石や鉱物に近いイメージ」とコメントした。
リュウグウの地下物質と表面物質の違い
NIRS3(近赤外分光計)の論文成果については、会津大学 コンピュータ理工学部の北里宏平准教授が説明した。この論文は、リュウグウで地下物質を直接観測した研究成果をまとめたもの。当初、速報的に地下も表面もあまり変わらないと伝えられていたが、その後の解析で、地下の方がわずかに水分に富んでいることが分かったという。
この観測は、2回目タッチダウンの前に実施。取得したデータの中から、地下物質がない場所、地下物質が飛散した人工クレーター北側、地下物質が露出した人工クレーター内部を選んで比較したところ、反射スペクトルの吸収に違いが見られ、わずかではあるものの、地下物質の方に水分が多いことが分かった。
ただ、違いが見つかった一方で、地下も表面と同様に、300℃以上の加熱による脱水を経験しているという共通点がある。太陽光による加熱では、地下はそこまで温度が上がらないため、この脱水の理由としては、リュウグウ母天体内部での放射性加熱、または衝突破壊された際の衝撃加熱が原因と結論づけた。
はやぶさ2が持ち帰ったC室のサンプルの中には、地下物質も混じっていることが期待されている。地下物質の加熱の原因がどちらなのか、北里氏は「サンプルの組織や結晶構造を見ると特定できるではないか」と期待を述べた。
またLIDAR(レーザー高度計)の論文成果については、国立天文台 RISE月惑星探査プロジェクトの竝木則行教授から3件報告された。内容についてここで詳しくは述べないが、この3本の論文で確立した軌道推定の手法は、将来の火星衛星探査計画「MMX」でも使われる技術になるということだ。