気になる“玉手箱”の中身は?

12時半からは、記者会見が開催された。

JAXA宇宙科学研究所の國中均所長は、「沿道では、大勢の地元の方などから熱い声援を受けた」と感謝を述べ、「これからの分析フェーズを確実に実施していきたい」と気を引き締めた。

はやぶさ2の地球帰還において、最大の不安要因は新型コロナウイルスだったと言って良いだろう。「3月~4月には日本中がロックダウンのようになり、カプセルが回収できるのか、分からない状況になった。オーストラリアが国境を閉ざす可能性があり、空路も安定に運用されるか見通せなかった」と振り返る。

そのような状況の中、今だから言える話だろうが、國中所長は「はやぶさ2の軌道を調整して、帰還を延期することまで検討した」という。しかし、「チャーター機を確保し、万難を排して乗り込む姿勢を世界に示すべき。そうすることで豪州政府も我々の意気込みを感じ、着陸許可の獲得も加速するだろう」と考え、予定通りの実施を決めた。

國中所長はまた、はやぶさ2の地球帰還後、激務のプロジェクト関係者に対し、シフトを管理してしっかり休息が取れるよう指導したという。しかし、「所長は一人しかいなかった」という“痛恨のミス”が発覚。ここ数日、まったく休むことができず、「コーヒーも飲めなかった」と苦笑いした。

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    JAXA宇宙科学研究所の國中均所長。この日ばかりは笑顔を見せた

津田プロマネは、カプセルを出迎えたときの気持ちについて、「52億kmの往復飛行をして戻ってきた実感が、やっと湧いてきた。心に迫るものがあった」とコメント。「新しい科学がここからスタートできる。それに、はやぶさ2が貢献できて良かった」と、喜んだ。

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    はやぶさ2の津田雄一プロジェクトマネージャ

さて、気になるのは、カプセルの中にリュウグウのサンプルは入っているのか、またそれはいつ分かるのか、ということだろう。

すでにオーストラリアにおいて、カプセル内のガスの採取には成功している。現地にて簡易分析も実施したが、まだこれがリュウグウ由来かどうかは特定できないとのこと。ガスが入っていたことで、サンプルが詰まっている期待は大きく高まったと言えるが、断定するには、実際に中を見てみるしかない。

今後の予定については、JAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの臼井寛裕グループ長が説明。それによると、クリーンチャンバー内で蓋を開けるのは、「早ければ来週になる」とのこと。もし目視で分かるほどの量とサイズのサンプルが入っていれば、すぐ発表されるだろうから、非常に楽しみだ。

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    JAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの臼井寛裕グループ長

今後のキュレーション作業については、すでに紹介した記事があるので、詳しくはそちらを参照して欲しい。最初の半年間は、サンプルのカタログ化を行い、そこから分析が本格化することになる。

参考:はやぶさ2が持ち帰った試料はどう分配する? 12月下旬にも取り出しを開始へ

津田プロマネは、「何が入っているのか楽しみ。まずは、水や有機物が見つかることを期待したい」とし、その上で、「私個人としては、たとえば有機物でも複雑な分子構造だったり、我々が思ってもいなかったような発見も期待したい」と、コメントした。

クリーンチャンバー「CC3-1」でのサンプル回収リハーサル(6倍速)。CC3-1は真空環境のため、このようなマニピュレータを使う (C)JAXA

カプセルの様子はどうなっている?

ところで、筆者も含め、再突入後のカプセルの様子が気になる人も多いだろう。初号機のカプセルは、想定していたよりも加熱が弱かったらしく、背面ヒートシールドにカプトンテープが燃え残っていたりした。

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    はやぶさ初号機カプセルの背面ヒートシールド (C)JAXA

はやぶさ2のカプセルのヒートシールドはどうだったのか。JAXAからはまだ写真が公開されていないため、津田プロマネに確認したところ、「まだちゃんと見ていない」と前置きした上で、「少しテープが残っていて、全体に黒くなっていた」と回答した。

はやぶさ2のカプセルは、基本的に初号機を踏襲しているが、いくつか改良が施されている。その1つは、飛行中のデータを取得する「再突入飛行計測モジュール」(REMM)の追加だ。これにより、飛行中のログが取れれば、再突入機に関する様々な知見が得られるのだが、まだデータは確認しておらず、メンバーの帰国後になるとのこと。

カプセルは、初号機に続き、完璧に動作。津田プロマネによれば、カプセル担当チームは「大変喜んでいた」という。

カプセルは、リレーで言うとアンカー。そこまで順調に走っていても、アンカーが転んでしまえば台無しになるので、重圧はすごかっただろう。しかも、当然ながら予行演習はできないので、ぶっつけ本番で確実に動作する信頼性も求められる。

運用メンバーからは、分離機構が確実に動くのかどうかなど、様々なプレッシャーを受けていたそうだが、見事に動作。パラシュートが開いて着陸したことが分かったときは、「『ほら、できたでしょ』という顔を我々に向けていた」そうだ。

初号機の帰還後は、カプセルの巡回展示まで行われた。はやぶさ2について、具体的にはまだ何も決まっていないそうだが、吉川真ミッションマネージャによれば、「広報としては企画を考えたい。ヒートシールドの状態や、コロナの状況も見ながら、皆さんになるべく見ていただけるようなことを検討したい」と、前向きな姿勢を示した。

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    会見の終了後には、どこからともなく“玉手箱”が登場、運用チームからキュレーションチームに手渡された。しかしこれを開けたらどうなるかという先行事例を知っている我々現代日本人にとっては、もらって困るプレゼントNo.1かもしれない(笑)