SEMIジャパンは9月15日、「第7回 SEMI JAPANウェビナー」を開催。PwCコンサルティングの田中大海氏と丸山智浩氏による「After/With COVID環境における半導体産業に必要なサプライチェーンマネジメント(SCM)施策とブロックチェーンの活用」と題する講演が行われた。
PwCコンサルティングは、半導体サプライチェーンマネジメントの4大課題として
- 需要変動への対応
- BCM/BCP(事業継続マネジメント/事業継続計画)の見直し
- 米中の半導体貿易摩擦
- 半導体模造品の被害
をとり上げた。それぞれの課題の要点は以下の通りである。
需給変動への対応
- 半導体製造は、リードタイムが約24~28週と長い一方で、半導体製品(特にスマートデバイス)のライフサイクルが短くなっている。
- 半導体、とりわけスマートデバイスの将来の需要予測は極めて困難である。
- このため、高度な在庫調整能力を要し、生産と調達との密接な連携が必要である。
- 価格設定における従来アプローチの董襲はリスクが高い。競争力を推し進めるための強引ともいえる小売価格設定の存在により投資収益率の把握が困難になってきている。
- コロナ長期化に伴い、需要が量から質へ大転換してきている。
- 需給サイクルタイムの構造的な課題の解決に向けて抜本的なサプライチェーンの見直しが求められている。
BCM/BCPの見直し
- 新型コロナウイルス感染症に対する封じ込め対策などにより、半導体需要は当初よりは厳しい影響を受けている。PwCコンサルティングは、2020年の半導体市場の成長率を前年比3.3%増と予測しているが、日本に限っては同4.2%減と予測している。
- グローバルサプライチェーン全体の現状把握と早期見直しが急務である。
- 従来型成長シナリオ、コスト安をねらった「質より量」のメリットが限定的になっている。訴求力がみあえば高くても売れる。
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コロナ禍の長期化でリモートワークやオンラインアクセスをサポートするための投資が継続的に必要である。
米中の半導体貿易摩擦
米中半導体貿易摩擦はその本質的影響を見据える必要がある。
地政学的な国家間、企業間の複雑な関係性や相互の牽制、関連規制などを踏まえて、バリューチェーンの上流から下流に至るまで、1次のみならず2次、3次のまでおよぶ取引先/サプライヤ/顧客の見直しが必要になってきている。
半導体模造品の被害
- 電子部品の中でも高価で流通量が多いICチップが模造対象になりやすい
- 製品の供給不足や生産終了が原因で正規流通網の製品在庫が底をつき購買政策上、非正規流通網から調達せざるを得ない売位に模造品被害に遭遇するリスクが高い。半導体業界の損失は、約8000億円(市場全体の約2%程度)と予測される。過去に欧米の税関当局が40万個を超える模倣半導体製品を検挙したことがあった。
半導体模造品撲滅への対策
半導体の偽造手法には、頻度の高い順に、(1)破棄品の再利用およびリマーク、(2)過剰受託生産品の横流し、(3)規格外不良品、(4)クローン(無許可の半導体メーカーによって製造されたされた本物そっくりの違法な製品)、(5)偽造文書(半導体製品は本物だが仕様をいつわった文書添付)、(6)タンパー(本来の機能とは別にハードウェアトロイとよばれる別の回路を組み込み、改ざんされたIC)があるが、最も一般的な手法は(1)で、全体の8割以上を占めている。再利用を見破るためには、使用履歴を検知するセンサをICに組み込む手法が、マークを書き換えるリマーク対策には、植物のDNAを含む特殊インクで印字する手法がとられることがある。
偽造品の発見後、官による取り締まり、民による訴訟で原因の追究が進められる。一方、厳しい市況競争環境下、各社が高い偽造品対策コストを顧客に転嫁することになるほか、ただちに偽造品を回収することは困難が付きまとう。そのため模造品によるブランド棄損を避け、品質・性能を担保するのが困難な状況にある。
サプライチェーンマネジメントによる偽造品対策
サプライチェーンマネジメント(SCM)に基づくトレーサビリティの実現により、物流過程の偽造発見箇所を増やし、偽造原因の特定と偽造発見後の被害の極小化を図ることができるようになる。また、正規以外の流通ルートを市場から排除することでさらに信頼性を向上させることも可能になる。
しかし、各社が個別にSCMを実現しても偽造品対策としての有効性は低く、非正規ルートを完全に排除することは不可能なため、偽造品対策には業界全体でサプライチェーンの透明化を推進する必要がある。
完全なサプライチェーンを実現し、消費者に透明性を確保することで偽造品の撲滅をめざせる。また、サプライチェーンの効率化をブロックチェーンで行うことで、リアルタイムでデータを参照できるようになり、AIなどの技術を活用した生産・販売計画や物流会社の評価などへの展開も可能となるため、経営の高度化へつながると考えられるとしている。
なお、田中・丸山両氏は講演の最後、「半導体業界は、自動車、通信、産業機器など、多様な業界にかかわり、増加する模造品は一般市民の健康、安全、安心を脅かす社会課題となっている。SEMIが他産業を先導し、業界一丸となって解決に取り組み、自動車など他産業に取り組みを拡大することが期待される」と述べている。ちなみにSEMIによると、ブロックチェーンを使って、半導体製造に係る部材や製造装置の品質保証を行うこと、ならびに製造された半導体をサプライチェーンを通じて管理していくことで、模倣品を排除することを目指した標準化活動を、現在、日米合わせて60社近くの企業が参画する形で進めているとしている。