ベルギーの独立系半導体ナノテク研究機関imecは、年次研究報告会の米国版である「imec Technology Forum USA 2020(ITF USA 2020)」を7月9日(米国時間)にオンラインで開催。その中で、ASMLプレジデント兼CTOのMartin van den Brink氏が、「モノの人工知能(AI)を目指して」と題した招待講演に登壇し、今後の露光技術のトレンドと、将来のASMLの方向性について説明を行った。

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    バーチャル開催となったITF USA 2020にて講演をするASMLプレジデント兼CTOのMartin van den Brink氏 (著者によるスクリーンショット)

これまで以上に重要性が増すムーアの法則

同氏は、5Gの登場で、IoTと人工知能(AI)が融合した「モノの人工知能」の時代が到来し、エッジがAI機能を持つようになるだろうと指摘する。これは、これまではエッジで生み出されたデータは、後段のコンピュータに送って処理を行っていたものが、そうしたコンピューティング能力そのものがエッジに搭載されてくる、つまり、エッジコンピューティングの時代が到来するということを意味する。

これを実現するためには、エッジでの低消費電力かつ高効率な小型のAIチップが必要になってくる。それを実現するのが回路パターンの微細化である。同氏は、「ロジックデバイスの微細化に関する今後15年間のトレンド予測を見ると、ムーアの法則は今後も継続するだけではなく、今まで以上に輝く(Moore's Law is brighter than ever)」とし、ASMLはさらなる微細化に向けた研究を継続していくことを強調した。

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    ASMLが示した2035年に向けたロジックデバイスの微細化ロードマップ (出所:ITF USA 2020での配布資料より抜粋、以下すべて同様)

ASMLが行ってきたコスト削減と処理性能向上の両立法

ASMLは、過去36年にわたって露光装置の高解像度化に向けたさまざまな取り組みを行ってきた。

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    ASMLの露光装置における高解像度化に向けた取り組みの変遷

また、ボディの共通化を図り、同一プラットフォームを用いるなどの工夫も行ってきた。こうした取り組みの結果、すでに70%以上の部分で各露光装置において共通化ができているため、すべての波長にわたって、露光1回当たりのコストを最大30%ほど節約することに成功しつつも、スループットの向上も果たしているとする。

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    リソグラフィプラットフォームの共通化によりコストダウンと性能向上の両立を実現してきた

性能向上が続くEUV

ASMLが提供する最先端プロセスを実現するEUV露光装置「NXE3400シリーズ」の設置台数は四半期ごとの増加し続けており、2020年第1四半期までの累積設置台数は57台、トータルのウェハ処理枚数は1100万枚に達している。

特にウェハ処理枚数はこの1年で3倍近く増加したとのことで、装置稼働率もトップクラスの顧客では9割を超えるまでになっているとする。

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    ASMLのEUV露光装置「NXEシリーズ」の設置台数、ウェハ処理枚数、稼働率の推移

また、光源の安定性や回路パターンの均一性も向上した結果、露光プロセスにおけるウェハ表面へのパーティクル付着によって生じる欠陥の発生は大きな問題であったが、クリーン化によって減らせることが見えてきており、ぺリクルを採用すれば解決できるレベルになってきたという。加えて、レジストの改良も進んでいるが、こちらについては、ライン幅のばらつきやエッジラフネスの改善にはなお一層の注力が必要であるとした。

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    EUV露光装置におけるウェハへのパーティクル付着による欠陥発生問題は軽減の方向。ぺリクル膜採用で解決へ

2025年に向けたASMLの製品ロードマップ

ASMLの波長別の露光装置の2025年に向けた製品ロードマップを見ると、i線とKrFは、XTプラットフォームでの生産性を向上させ、量産対応はNXTへ移行する模様だ。

また、ArFはドライ、液浸ともに、イメージング、重ね合わせ精度、生産性を向上のためNXTプラットフォームへ移行する。

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    DUV装置のロードマップ

そしてEUVに関しては、顧客からのさらなる微細なデバイスを量産したいというニーズに対応することを目的に、NA=0.33の現行機種でのイメージング、重ね合わせ精度、生産性改善を続けるほか、NA=0.55を実現する次世代機種の提供により、2030年に向けてさらなる微細化の実現に向けた道を拓くとする。

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    EUV装置のロードマップ

なお、次世代機種とされる「EXE:5000」のシステムアーキテクチャはすでにほぼ固まっているという。

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    次世代EUV露光装置「EXEシステム」(NA=0.55)のアーキテクチャ

なお、同氏は最後に、「今後の『モノの人工知能』の普及により、ムーアの法則の将来は、統合的リソグラフィ(Holistic lithography)に支えられる形で、これまで以上に光り輝くことになる」と、再びムーアの法則が今後も継続していくことを強調して話を結んだ。