英Armは現地時間の4月29日、同社が提供している「Arm Flexible Access」に新しく、スタートアップ企業向けに初期費用を0に抑えた「Arm Flexible Access for Startups」を追加した事を発表した。

Arm Flexible Accessそのものは2019年7月に発表されたプランである。

元々Armは、Standard Licensing(まずArmと契約を結び、ライセンス費用を支払ってIPを入手。これを利用してSoCの量産の際に所定のロイヤリティを支払う)と、Design Start(初期費用0~7万5000ドルで特定のIPを利用可能であり、SoC量産の際にはさらに追加のライセンス費用(0~5万ドル)とロイヤリティを支払う)の2つを提供しているが、Design StartはCortex-M0/M1/M3とCortex-A5のみに限られており、バリエーションに乏しかった。

そこで、Flexible Accessではいわば年間のサブスクリプション費用に当たるAccess Fee(7万5000ドルないし20万ドル)を支払うと、全部では無いものの膨大な数のArm IP(CPUのみならずGPUやInterconnect、周辺回路なども含まれる)を自由に利用して設計が可能であり、SoC製造まで追加コストが掛からない(テープアウト時にライセンス費用を支払う)という方式を提供していた。

今回の発表は、このDesign Startを小規模なスタートアップ企業に適用しやすくするためのものとなる。ここでいう「小規模」(Armはこれを"early-stage" as startupと称している)は、ファンドなどからの投資総額が500万ドル以下、と定義されている。この規模のスタートアップ企業では、Flexible AccessのEntry(年額7万5000ドル)ですら厳しい、という状況を踏まえて、これらの企業向けに早期からArmベースのIPを使ってシステムを構築するための施策と考えれば良い。

このArm Flexible Access for Startupsにあわせ、同社はSilicon Catalystとの戦略的パートナーシップも発表した。Silicon Catalystは名前の通り、半導体ソリューションの提供を手掛けるスタートアップ企業のみを対象としたインキュベーター企業であるが、今回の戦略的パートナーシップにより、Silicon Catalystの投資対象となるスタートアップ企業は、ArmのIPやEDAツール、プロトタイプ製造などを無料で利用できることになった。

これに先立つ4月22日、Armは韓MSS(Ministry of SMEs and Startups:中小ベンチャー企業部)と共同で、Arm Flexible Accessが韓国のスタートアップ企業で広範に利用可能となる契約を締結した事を発表しており、今回の発表はこれに続くものとなる。

これらの施策はいずれも、要するにArmによる囲い込み戦略の一環である。Armのビジネスはエコシステムパートナーが増えていく事で成立するものであり、コンシューマ向け製品に比べればずっとロングテールとは言え、新しい製品にArmのIPが使われていかないといずれビジネスが先細りになるのは明白である。特に韓国に関して言えば、昨今ではRISC-Vの採用例が次第に増えつつあり、こうした動きへの牽制の意味合いは大きいと思われる。

ちなみにFlexible Accessでは最新のIPは提供されておらず、Cortex-AではCortex-A5/A7/A32/A34/A35/A53、Cortex-RではCortex-R5/R8/R52、Cortex-MではCortex-M0/M0+/M3/M4/N7/M23/M33までで、最新のCortex-M35やCortex-A7x、あるいはEthosシリーズなども現時点ではまだ未提供である。ただCortex-A7xシリーズはともかく、個人的にはEthosシリーズのNPUはそのうち含まれるようになっても不思議ではないと思う。このあたりの見直しが図られるのは、(まだ本当に開催されるのか怪しいが)今年のArm TechConあたりの時期ではないかと想像している。