2017年にIntel(インテル)に買収されたMobileye(モービルアイ)は12月3日、買収後、日本では初となる事業説明会を開催。同社の自動車の画像処理などを高度に行うことができるSoC「EyeQ」のみならず、MaaSやHDマップ(ダイナミックマップ)を中心としたデータビジネス市場の開拓を進めていることを明らかにした。

ADASと自動運転の2方向でビジネスを拡大

現在の同社のビジネス領域は大きく2つ。1つ目は自動車の安心・安全というニーズに深く関わる「ADAS」、もう1つが「自動運転」であり、ADAS市場は、近年の自動車の電動化などもあり、ADAS事業の売り上げは前年同期比で20%増と伸びているという。「こうした売り上げで得た資金をもとに自動運転技術の開発などを進めており、この両輪が我々のビジネスの源泉となっている」とモービルアイ・ジャパン 代表取締役社長の川原昌太郎氏は、自社の事業状況を説明する。

実際、同社の現状の売り上げは約9億ドル。その売り上げの大半が主軸であるEyeQシリーズの出荷によるもので、シリーズ合計でこれまでに5000万個を出荷したという。2014年以降の年平均収益成長率(CAGR)は44%と高く、従業員数も2017年の買収前と比べて約2倍に増加するなど、成長が続いており、2022年には本社のあるイスラエルに数千人を収容可能な自社ビルが完成する予定で、イスラエル政府からも大きな期待を寄せられているという。

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    これまでにEyeQはシリーズ累計で5000万個を出荷=世界中にそれだけのクルマが走っている (出所:2019 Mobileye Investor Summit発表資料。以下、すべて同様)

EyeQについては、現在26社で45の案件が進められており、2019年には22件のデザインウイン、16車種が量産開始となったとのことで、日産のプロパイロット2.0にも採用されていることを明らかにした。

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    スライドでは26社45案件となっているが、日本語の発表資料では27社45案件となっている

半導体のみならず、データビジネスも展開

モービルアイのミッションは、「ビジョンベースの技術開発と市場展開を通じて、交通事故を減らし、ドライバーや搭乗者、ロードユーザーの安全を守ること」。これまでは、主にADASを進化させることで、その実現を目指してきたが、Intelの買収により、世界規模の生産能力や経営基盤などを活用できるようになったこともあり、現在は、上記のミッションに加え、「Complete Mobility Providerになること」も目指しているという。

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    ADAS/自動運転のバリューチェーン全体をカバーするモービルアイのソリューション・ポートフォリオ

そのため、現在は光学カメラからの映像処理のみならず、EyeQの進化に併せてサブコンポーネントとしてLiDARやミリ波の処理にも対応させ、「True Redundancy(確かな冗長性)」と同社が呼ぶシステムの安全性を確保したほか、自前のHDマップ「REM」も開発し、それらを組み合わせることで、自動運転を実現させようとしている。

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  • 安全運転のフォーマルモデルであるRSS(責任感知型安全論)モデルの概要

このREMは、カメラで取得した標識や白線、信号、前方車両の移動軌跡などさまざまな情報をエッジ側で処理。必要なデータのみをデータセンターに送ることで、自動的にHDマップの高精度化を測ることができるソリューション。エッジ側で処理を行うことで、データセンターに送られるデータ量は1kmあたり10KBほどと軽量で、日本でも高速道路のデータはほぼ取得済みだとする。

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  • 画像認識を活用した周辺認識のアプローチと、それを活用したREMのプロセスイメージ

実際のデータは専用車両が道路を走るのではなく、EyeQを搭載し、ハーベスティング(データ収集)を可能にした自動車メーカーの車両を活用(BMWが2018年12月よりグローバルに展開を開始。フォルクスワーゲンも対応済みで、合計4社が契約ベースでは対応が決定済み。交渉ベースではさらに複数社で話が進んでいるとする)するか、アフターマーケット向けの後付け衝突防止システム(EyeQ4を搭載したMobileye 8(ME8)が2020年以降に日本でも販売される予定)を搭載した車両からのデータ送信よって構築される。

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  • すでに複数の自動車メーカーがハーベスティングに対応。実際にサービスの提供に向けて、HDマップ用のデータ取得が自動的に進められているという。なお、個人情報については、各国・地域の規制に沿った形で対応しており、一番取り組みが進んでいる欧州ではGDPRに準拠しているという

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  • 世界の主要地域でまずはREMのHDマップ作成が進む。一番進んでいるのは欧州で、2020年第1四半期に欧州全域のマッピングが完了する予定

こうした自動車から日々200万kmの道路データが送られてきており、これまでに3億kmの道路をカバー。まず、2020年第1四半期までに欧州全土のマッピングが完了する予定だが、英国ではOrdnance Survey(英国陸地測量部:OS)と協力して、REMによって生成された路面上の各種データとOSが元々保有しているデータを組み合わせて、下水や電柱、信号、街灯、変電設備などといったインフラ情報を整備して、データとして販売しようという取り組みも進めているという。

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  • 英国ではOrdnance Surveyと協力して、信号や街灯、電話ボックス、マンホールなどを走行データから取得。それをデータとしてインフラ整備などに活用しようという取り組みが進められている

「何台ものクルマが同じ場所を通ることで、データの精度を向上させていくことができる。こうした機能を改善していくことで、インテリジェントなエージェントとして我々のソリューションを活用することができるようになる」(同)とのことで、英国でこうしたデータ提供ビジネスの成功を目指すほか、すでにシンガポール、香港、ドバイなどでも同様の取り組みを進めることを計画しており、同氏も「クルマから得られる道路に関するデータをビジネス化していくことが次の戦略の1つ」と説明する。

車載カメラに映るものであれば対象となるため、マンホールや電柱の位置のほか、道路状況、工事現場、交通量、駐車状況、歩行者の横断状況、公共交通機関における歩行者の様子、リアルタイムアラートによる危険度判定、運転手のスコアリング、事故などが少ない安全なルートの探索の提案など、さまざまな用途に活用が期待できるという。

自動運転サービスを世界各地で展開

ADASともう1つ、同社の事業の核である自動運転向けには、現在、自動運転キットとしてEyeQ4を搭載した「EPM 44」が提供されているほか、2019年11月からは最新世代となるEyeQ5を搭載した「EPM 52」の出荷も開始された。また、2020年1月からは、同社も進めようとしているロボットタクシーを可能とするEyeQ5を最大9個搭載する「EPM 59」の提供も予定している。

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    自動運転向けキット各種の概要

また、各国でパートナーとの連携も強化を図っている。例えば中国では電気自動車(EV)メーカーのNioと2019年11月より、モービルアイの自動運転レベル4に対応するハードウェア/ソフトウェアをNioの車両に搭載し、中国で販売していく協業を開始。また、Nioは、モービルアイが専用で利用できるロボットタクシー車両の開発も行う契約となっている。

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    中国Nioとの協業内容

モービルアイは2022年をターゲットに、イスラエル、中国、フランスでパートナーなどと連携してEVによるMaaSとしてのロボットタクシー事業を開始する計画を立てている(イスラエルの場合、フォルクスワーゲンがレベル4のEVを提供し、輸入代理店であるChampion Motorsがフリートオペレーションを担当)ほか、米国でも2023年より単独事業としてMaaSの提供を計画している。日本でも事業展開は検討しているというが、具体的な時期や取り組みについてはまだ発表段階にはないという。

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    MaaSの世界展開の計画

STMicroelectronicsとの関係はしばらく維持

モービルアイのSoCであるEyeQシリーズは、2018年より量産を開始したEyeQ4、最新世代で2019年12月よりサンプル提供を開始したEyeQ5(2021年3月から量産予定)、そして次世代品で、2020年下旬のサンプル出荷を予定するEyeQ6がアナウンスされており、EyeQ4まではほぼ4年に1回の世代交代であったものが、EyeQ5以降は2年に1回へと早められている。

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    EyeQシリーズのロードマップ

その製造を担うのはIntelではなく、Intel買収前から関係を築き上げてきたSTMicroelectronicsである。川原氏は、「市場がそのくらいの早さでの性能向上を求めており、それに対応するために開発速度を早めた」とするほか、「この時間軸で考えた場合、Intelの技術を入れている余裕が無かった」と説明。EyeQ7以降のシリーズにはIntel独自の技術なども搭載する可能性はあるが、まだ現時点ではなにも言えるようなことは決まっていないとのことで、しばらくSTMicroelectronicsとの関係は維持される見通しとなっている。

なお、モービルアイとしては自動運転車両によるロボットタクシー事業においては、法整備の観点などから政府や行政の支援が重要との認識を示しており、イスラエルでのMaaS「プロジェクトPINTA」で、道路関連の法整備を政府と協力して進めていきたいとしており、成功の暁には、その知見を海外のほかの国々に展開していき、自動運転社会の確立を目指していきたいとしている。

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  • 自動運転技術の進化の流れ。一般消費者での自動運転の普及の前に、ロボットタクシーで自動運転を活用することで、初期の高いコストでの自動運転システムの普及を図りつつ、法規制の検証やHDマッピングの進展などを図ることができるようになる。そうした意味で、イスラエル政府の後押しがあるプロジェクトPINTAにモービルアイがかける期待は大きいといえる