山梨県と長野県にまたがってそびえる八ヶ岳。そのふもとに沿って走るJR小海線に、「HIGH RAIL 1375」という観光列車が走っている。
昼間は、風光明媚な景色を眺めながら、ブランチやスイーツを楽しめる列車として、そして夜には、宇宙の魅力に包まれながら、星空を楽しめる列車「HIGH RAIL 星空」として運行。日本でも有数の星空の名所であり、また国立天文台の野辺山宇宙電波観測所もある、長野県の野辺山高原を走る、"天空にいちばん近い列車"として親しまれている。
今回はこのHIGH RAIL 星空に乗り、「宇宙県」とも呼ばれる長野県を旅した。
「HIGH RAIL 星空」とは?
HIGH RAIL 1375は、山梨県北杜市にある小淵沢駅と、長野県小諸市にある小諸駅をつなぐ、JR小海線を走る観光列車である。
別名「八ヶ岳高原線」という愛称でも親しまれており、八ヶ岳南麓の小淵沢高原から、八ヶ岳や南アルプス連峰、そして富士山を背景に、信濃川の上流部にあたる千曲川に沿って走る。まさに高原を走り抜ける路線であり、さらに途中の野辺山駅から清里駅の間には、JRの路線の中で最も標高が高い、標高1375mの地点の場所もある。
標高の高い高原を走ること、そして標高1375mのJR線標高最高地点を通ることから、HIGH RAIL 1375と名付けられている。
HIGH RAIL 1375はまた、日中に走る列車は「HIGH RAIL 1号」、「HIGH RAIL 2号」と呼ばれ、「1号」が小淵沢駅から小諸駅まで、「2号」は折り返して小諸駅から小淵沢駅までを結び、沿線の景色や、地元の名産を使った料理、スイーツを楽しめる列車として運行されている。
そして、ふたたび折り返し、夜間に小淵沢駅から小諸駅まで走る際には、「HIGH RAIL 星空」を名乗り、宇宙の魅力を感じながら料理を味わい、そして途中の野辺山駅では星空観察会が開催されるなど、五感で宇宙を楽しめるという趣向になっている。
おもに土・日・祝日を中心に運転されており、また夏休み期間中は運転日も増える。ただし、冬期は「2号」と「星空」のみの運転となる。詳しい運転日や時刻表は、公式サイトを参照のこと。
また、HIGH RAIL 1375に乗るには、乗車券のほかに、専用の指定席券が必要になる。そのため、あらかじめ「みどりの窓口」、もしくは「びゅうプラザ」で購入する。ちなみに後述するように、お弁当などがつく「オプションプラン」をつける場合は、びゅうプラザで買う必要がある。
HIGH RAIL 星空の出発地である小淵沢駅へ行くには、関東からだと新宿駅から中央本線の特急で約2時間。関西からは、名古屋駅で特急に乗り換え、塩尻駅を経由して訪れるのが近い。
さすが高原にある駅、ホームに降り立った瞬間から、澄んで美味しい空気が胸いっぱいに飛び込んでくる。さらに駅の屋上には展望台があり、北には八ヶ岳、南には南アルプスや富士山も見える。
駅の中や周辺には、飲食店や売店も多く、食事やお土産選びがはかどる。とくにこのあたりはお蕎麦が有名で、また名産の巨峰を使ったスイーツも美味しい。少し早めに訪れ、観光やショッピングを楽しむのがおすすめである。
HIGH RAIL 星空に乗ろう!
HIGH RAIL 星空に乗る前に、東日本旅客鉄道(JR東日本)長野支社・広報室の中野智夫さんに、この列車についてお話を伺った。
Q:HIGH RAIL 1375は、どういった経緯で誕生したのでしょうか?
A:JR東日本では、たんなる移動手段ではなく、列車に乗ること自体が旅行の目的となるような魅力的な列車づくりを進めています。HIGH RAIL 1375は沿線地域の活性化や広域観光流動の拡大を目指して、2017年の「信州デスティネーションキャンペーン」に合わせデビューしました。
Q:それをHIGH RAIL 星空、宇宙を楽しむ列車として、運行することになったのは、どういったきっかけだったのでしょうか?
A:この列車が運行する小海線沿線には、日本を代表する宇宙観測施設や、天文学者が選ぶ「日本で一番綺麗な星空ベスト3」に選ばれた南牧村があるなど、多くの魅力ある観光資源が点在していました。この中で、「星空」に想いを寄せる地域性を踏まえ、星空観察を楽しめる列車として運行を開始しました。
Q:HIGH RAIL 1375は、もととなった列車から、さまざまな部分が改修されています。どのような点を、どのような想い、目的で改修されたのでしょうか?
A:HIGH RAIL 1375は、小海線沿線の特徴も踏まえ「天空にいちばん近い列車」をコンセプトとした列車です。沿線の多くの魅力は標高が高く、「空」に近い自然環境に起因していると捉えて、「星空」や「宇宙」をキーワードに改修を行いました。
列車内の空間は、小海線沿線の豊かな実りを育む「大地」から想いを馳せる「空」、「宇宙」へのつながりを意識し、大人には少しノスタルジック、こどもにはワクワクを感じられるような空間としました。
取材日(2019年3月24日)の、HIGH RAIL 星空の出発時刻は18時17分。その少し前には、ホームに車両が入ってくる。
もともとは、東北地方で普通列車として走っていた車両を改造したものだが、それでも中野さんのお話どおり、大規模な改修によって、大人には少しノスタルジック、こどもには(もちろん大人も)ワクワクを感じられる、印象的な見た目をしている。
とくに目を惹くのは、夜空をイメージしたという深い青色と、古いSFに出てくる宇宙船のような金属風の銀色のボディ。側面に描かれた八ヶ岳の山々のイラストも相まって、非日常的な旅への期待を駆り立ててくれる。
車内もまた、通路やテーブルは木でつくられ、暖かな印象を与える一方、シートには星空の柄が描かれ、窓も宇宙船のようになっていたり、照明も星空をイメージしたものになっていたりと、宇宙を感じさせる演出が盛りだくさん。沿線の自然の豊かさと宇宙の神秘さが調和したデザインになっている。
座席は、窓に面したシングルシート、ペアシートをはじめ、ボックス席もあり、一人旅から家族旅行まで、さまざまな目的に対応。ちなみに座席は、通常の指定席のように、切符の予約時に選ぶことができる。
そして最大の特徴は、小さなプラネタリウムがあるところ。小さいといっても、春夏秋冬すべての星空が投影できるようになっており、見ごたえは十分。さらにその周囲には、天文関係の本を集めた本棚もあり、プラネタリウムの投影時間外には自由に読んで過ごすことができる。
HIGH RAIL 星空は定刻どおり、18時17分に小淵沢駅を発車。徐々に夜の闇に包まれる八ヶ岳のふもとの中を走り出した。