宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月9日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、先月実施したクレーター探索運用(CRA2)の詳細結果と、今後の探査活動の見通しについて報告した。CRA2では、直径10mの人工クレーターを確認。イジェクタ(噴出物)の採取を目指し、今月16日にターゲットマーカーを投下する予定だという。
円弧状に並ぶ副クレーターも発見
はやぶさ2は先月、「衝突装置」(SCI)の運用を実施。小惑星リュウグウ表面からイジェクタが出る様子を分離カメラ「DCAM3」が撮影するなど、ほぼ完璧な運用に成功していた。その後、表面を高度1.7kmから観測したCRA2により、人工クレーターを確認、観測データをダウンロードし、分析を行ってきた。
SCIの衝突場所については、目標とした地点からわずか20~30mしか離れていなかったことがすでに分かっている。クレーターの直径は10mとかなり大きく、深さは2~3m程度と見積もられている。ただ、正確な数字については、今後実施する予定の降下運用の観測結果を待つ必要がある。
SCIの衝突時、DCAM3の撮影によって、数百秒にわたってイジェクタが確認。大量のイジェクタが周囲に放出されたと見られ、着陸候補地点としていた「S01」エリアへの堆積が強く期待できる結果となった。衝突地点から離れるほど堆積物は薄くなるものの、目安として30mくらいまでなら堆積している可能性が高いという。
また、クレーターを中心として、円を描く場所により小さな副クレーターも見つかった。これは、事前の地上試験でも確認できていた現象で、SCIの爆発で前方に飛散した破片が衝突したものと見られる。地上試験と同じ現象が再現されたことから、SCIが正常に作動した証拠だと言える。
SCIによる人工クレーターの生成は、小惑星の内部物質を採取するための手段であるほか、本物の小惑星を使った衝突実験という側面もある。プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏(名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)は、今回の衝突実験の結果から「表層強度や表面年代の推定が可能」だと述べる。
リュウグウのように重力が極めて小さい天体では、表層強度の違いにより、クレーターのサイズに大きな差が出る。今回、衝突した物体の重さや速度は分かっているので、そこから強度を逆算することが可能だ。
一方、表面年代は、既存のクレーターの密度から見積もられているが、表層強度によって、約900万年前(砂のように強度が無い場合)から約1.6億年前(手で引っ張ると簡単に壊れる程度の強度)まで、不確定性の幅が非常に大きかった。しかし今回の衝突実験で表層強度が分かれば、表面年代もより高精度に推定できるようになる。
表層強度が分かると、リュウグウの形成過程や起源、小惑星帯から地球への物質輸送過程などが明らかになると期待されている。そして内部物質のサンプル採取に成功すれば、宇宙風化の過程なども解明できる。渡邊氏は「大きな成果に繋がる。今回の衝突実験が成功したのは非常に喜ばしい」とコメントした。
ところで、今のところ人工クレーターには特に名前は無いようだが、どうなるのか気になる人も多いだろう。人工的な地形は、国際天文学連合(IAU)では正式名称とならない決まりがあるものの、プロジェクトチーム内部で検討を進めているところで、「ぜひ良い名前を考えたい。決まったら今後発表する予定」(渡邊氏)ということだ。