茨城県つくば市でかつてEUVリソグラフィ(EUVL)関連の国家プロジェクトを2011年~2015年の4年間にわたって推進し、その後も自主的な民間共同研究プログラムを実施してきた先端ナノプロセス基盤開発センター(EIDEC。国家プロジェクトの受け皿だった4年間の旧社名はEUVL基盤開発センター)はすべてのプログラムの終了にともない、2019年3月31日に解散し、清算作業に入ったことを明らかにした。清算人は、東芝メモリから出向していた前取締役の井上壮一氏。前代表取締役の石内秀美氏は、4月1日付けで東京の東芝メモリ本社に帰任した。

  • EIDEC

    EIDECのロゴマーク

EIDECは、EUVLシステムにおける基盤技術であるマスク技術とレジスト技術の課題解決に向けて、国内の半導体デバイスメーカー、マスク関連メーカー、 レジスト関連メーカー11社の出資を受けて、EUVL基盤技術開発プロジェクトを推進するコンソーシアム企業として「EUVL基盤開発センター」の社名で2011年1月に設立された。そして、経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究事業「次世代半導体微細加工・評価基盤技術の開発」(2011年度~15年度)を核とした国家プロジェクトを受託し、EUVマスク検査・レジスト材料技術を主な対象として、日本のいくつもの大学や装置メーカーも共同研究機関として参画する形で開発を進めてきた。

一方、マスク技術やレジスト技術の実用化課題の解決には、関連サプライヤと先進ユーザー企業との連携による国際的開発加速が必要という判断のもと、Samsung Electronicsはじめ海外の先進半導体企業4社に開発パートナーとして参加を要請したことで、オープンイノベーションを徹底させた世界的連携開発体制をベースにした新しいタイプの国家プロジェクトとして、当時の経済新聞が1面のトップ記事として報道するほど注目を集めた。

一部では、そのような海外企業の参画に反対する声もあったが、結果として、そうした海外企業はEIDECの株主にはなれなかったものの研究者を送り込み、技術成果を自社に持ち帰ることに成功した一方で、日本ではこの研究成果を活用するはずのEUVリソグラフィを真っ先に必要とするような先端ロジックデバイス製造業がほぼ消滅してしまった。

2011~2015年の国家プロジェクトで採り上げられた研究テーマは、

  • EUVマスクブランク検査技術開発
  • EUVマスクパターン検査技術開発
  • EUVレジスト材料の基礎的研究
  • EUVレジストアウトガス制御技術開発

の4テーマで、後にEUVリソグラフィを補完する微細パターン形成技術である

  • 自己組織化(DSA)研究

が追加された。

2015年の国家プロジェクト終了後も、EUVL基盤開発センターは継続し、2016年度には社名を「先端ナノプロセス基盤開発センター」に変更。デバイスの設計・製造にあたって問題となる、ナノレベル欠陥の改善・制御をテーマとして、NEDO委託事業「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」の中の「先端ナノ計測評価技術開発」を部分受託し、民間研究開発協業も同時並行的に推し進める形で、「NDM(Nano Defect Management)プロジェクト」を集中的に進めていた。しかし、すべてのプログラムが終了したことを受け、同社は2019年3月31日をもって解散し、清算作業に入った。

EIDECは、EUVリソグラフィ装置やそれを用いたリソグラフィ技術そのものを研究開発したわけではなく、いわば周辺技術と取り組んできた。現在、EUVリソグラフィ装置は、世界最大の露光装置メーカーであるASMLの独占状態にあり、同社の業績拡大を後押しする存在となっている。これに対して、日本勢(ニコンとキヤノン)はEUVリソグラフィ装置ばかりではなく、その他の先端リソグラフィ装置でもASMLにシェアを奪われ続ける状況に追い込まれている。

EIDEC創立時の株主企業数は11社だったが、解散時の株主企業は、東芝メモリ、大日本印刷、富士フイルム、JSR、ニコン、信越化学、および東京エレクトロンの7社。そして2011年~2015年の国家プロジェクト終了後も京都大学、大阪大学、東京工業大学、 産業技術総合研究所、物質・材料研究機構の5組織と共同研究を実施してきた。

長きにわたる国策EUVL共同研究の終焉

日本では、経済産業省とNEDOの支援のもと、2002年に技術研究組合「極端紫外線露光システム技術開発機構(Extreme Ultraviolet Lithography System Development Association:EUVA)」が設立されて以来、長年にわたりEUVリソグラフィ技術開発がらみの国家プロジェクトが名前を変えて継続的に進められてきた。EUVAは発足当時、露光装置の光源メーカ3社(ウシオ電機、小松製作所、ギガフォトン)、露光装置メーカ2社(キヤノンとニコン)、デバイスメーカー4社(NECエレクトロニクス、東芝、富士通、ルネサス テクノロジ)で構成されていた。今回のEIDEC解散で、足掛け18年にもおよんだEUVリソグラフィがらみのコンソーシアム活動はすべて終焉したことになる。

いよいよ、TSMCやSamsung、Intelといった先進ロジックLSIメーカーやファウンドリでEUVリソグラフィを用いたロジックデバイスを量産に適用しようという段階に入ろうとしている。その前に日本の半導体メーカーはすべて、EUVリソグラフィを必要とする最先端ロジックデバイスの製造からは撤退してしまった。

1990年代半ば以降、半導体の微細化プロセス研究を行ってきたいくつもの日の丸国家プロジェクトや民間コンソーシアム活動は、成功したか否かはともかくとして、残念ながらいずれも本来の目的だったはずの日本の半導体産業復権に貢献できぬままひっそりと消えてしまったことになる。