仏Yole Développementは、SiCパワーデバイス市場が、2017年の3億2000万ドルから2023年には15億ドル以上まで、年平均成長率31%で着実に成長すると予測している。車載中心にSiCパワーデバイスへの関心が高まっているため、2018年に自身で発表した29%増という予測を上方修正したことになる。車載中心に需要が急増してきているため、SiCウェハのサプライチェーンが需要急騰にはたして対応できるか一部で疑問視されている

Yoleのグループ企業で知的財産権(IP)の調査を行っているKnowmadeは、SiCベースのパワーエレクトロニクス(SiC MOSFET、SiC SBD、SiC パワーモジュールを含む)に関する特許動向の調査結果を発表。日本企業が当該分野でのリーダーシップを発揮しており、中でも自動車および関連メーカーの存在感が増してきているとしている。しかし、その一方で、新興の中国SiCメーカーによる特許獲得競争への参戦が顕著になってきているとも指摘している。

デンソーと富士電機がリードするSiC MOSFET

SiC MOSFETに関する特許出願は、最初の製品の商品化に伴って2011年から2015年の間に目覚ましく増加した。特にデンソーと富士電機は、SiC MOSFET関連の特許を多数出願している。また、中国では、State Grid Corporation of China(SGCC)、CRRCおよびSiCファウンドリ専業のCentury Goldrayなどの国営企業が続々誕生しており、これらの新規参入企業の共通の特徴として、プレーナ型とトレンチ型の両方のMOSFET構造でIPを獲得しようとしている点が挙げられている。

また、台湾では工業技術研究院(ITRI)がSiC MOSFETの研究開発に長年携わってきたが、Hestia Power(瀚薪科技)が登場する2016年まで、商用SiC企業は存在しなかった。同社は、費用対効果の良い平面接合障壁ショットキー(JBS)ダイオードを統合した MOSFET構造に重点を置いて研究開発を行っている。

このほか、Cree/Wolfspeed、ローム、Infineon、STMicroelectonicsのような現在有力なSiCパワーデバイスメーカーはいくつかの重要な特許を所有してはいるものの、必ずしも強力なIPリーダーシップを持っているわけではないとKnowmadeは分析している。

  • SiCキープレイヤー

    プレーナーSiC MOSFET、トレンチSiC MOSFET、SiC SBD(ショットキーバリアダイオード)、SiCパワーモジュールそれぞれの分野の主要IP保有企業一覧 (出所:Knowmade)

GEとCreeがリードするプレーナ型SiC MOSFET

プレーナー型SiC MOSFET分野でいまだに活発に活動しているキープレーヤは伝統的な米General Electric(GE)であり、独Danfoss Silicon Powerと研究契約を結んでいる米Cree/WolfspeedはプレーナSiC MOSFET IP取得競争で競争相手である三菱電機と富士電機を大きくリードしている。実際、競合他社からの特許活動は急増しておらず、CreeのIPリーダーシップを脅やかすには至っていない。 Cree/Wolfspeedの強力なリーダーシップとプレーナSiC MOSFET技術の成熟度の高まりにより、同社の2015年以降の特許活動は減速している。

デンソーが圧倒的な強さを見せるトレンチ型SiC MOSFET

トレンチ型SiC MOSFET分野で、デンソーが単独でもトヨタグループとしても他社を圧倒している。デンソーは、富士電機よりもはるかに優れたトレンチ型SiC MOSFET IPを所有しており、競争をリードしている。

しかし、富士電機も現在出願中の特許が許可されれば今後数年間で真剣に対峙する立場になる可能性がある。トヨタ自動車、豊田中央研究所、住友電気工業、ロームなどのさまざまな特許出願人が現在も活躍しているプレーナ型SiC MOSFETとは異なる状況にある。

デンソーは、電気自動車(EV)およびハイブリッド電気自動車(HEV)用のSiCパワー技術の開発の加速という観点から、トヨタ自動車および豊田中央研究所との提携を通じて積極的にそのリーダーシップを強化しているが、トレンチSiC MOSFET IP競争において新たな挑戦者が新規参入する余地がもっとあるように思われるとKnowmadeは分析している。

ちなみにCree/WolfspeedのIPポートフォリオはプレーナ型SiC MOSFETに比べてトレンチ型SiC MOSFETのほうが比較的少ないが、同社はほとんどの競合企業よりも先に重要な発明の特許取得を行っているため、いくつかの重要な特許を所有している。

  • トレンチ型SiC MOSFETの所有特許数

    トレンチ型SiC MOSFETの所有特許数と出願中の特許数に基づくSiCメーカーの位置付け (出所:Knowmade)

多くの日本企業が存在感を示すSiC SBD

SiC製SBD分野のIPに関しては、三菱電機とCree/Wolfspeedがリードしている。それに次いで、富士電機と住友電工が現在最も活発な特許を出願している。

三菱電機、富士電機、東芝およびパナソニックを含むほとんどの特許は、エッジ終端領域に関連する信頼性の問題を扱っている。さらに、Cree/Wolfspeedと三菱電機の両社は、スーパージャンクション構造を持つショットキーデバイスに関する特許を所有している。

新しい特許の中には、パナソニック、デンソー、富士電機、および独InfineonからのJBSダイオードの電流の増加に関する特許やパナソミックと富士電機からの温度上昇に伴う電気特性安定性の改善に関する特許が目立つ。中国勢のCentury Goldrayの特許は主にJBSダイオードに関するもので、中国国内のみで出願されている。

徐々に存在感を増すSiCパワーモジュール

2012年以降、SiCモジュール関連特許のSiC特許全体に占める割合は増加傾向にある。特に2013年以降は急激に増加している。なお、2018年の特許については、調査中であるため、最終的な数字ではないという。

三菱電機は、主にハイブリッドSi/SiCモジュールに重点を置いた主要特許で、SiCパワーモジュールIPを主導している。一方、ロームの最近の特許取得活動では、EVでのフルSiCモジュール、効率的な放熱に対する解決策、高温で動作するパワーモジュールアセンブリの信頼性、および浮遊インダクタンスの低減に重点が置かれている。そして新規参入のDanfossは、2018年にフルSiC MOSFETモジュールに関する4つの特許を申請し、モジュール内部の相互接続の最適化されたレイアウトによる性能の向上に焦点を当てている。

  • SiCパワーモジュールに関する公開特許件数の年次推移

    SiCパワーモジュールに関する公開特許件数の年次推移 (出所:Knowmade)

なお、Yoleによれば、欧州各社が車載関係で力を入れてきているほか、中国勢の参戦もあることから、シリコン同様、ファブレス/ファウンドリモデルの形成により、今後のSiC分野は競争が激しくなる可能性がでてきているという。