日本初開催となった「IEEE Micro」
コンピュータ関係の主要な学会である「IEEE Micro」が、2018年10月20日から24日にかけて福岡のGrand Hyattホテルで開催された。今回は51回目の開催であるが、日本での開催は初めてである。
この日本での初開催を実現した立役者が、共同チェアマンを務めた九州大学の井上弘士教授である。
今回のMicro51は日本での開催という点でも初であるが、Microの参加人数が600人を超えたという点でも初である。Microはコンピュータのマイクロアーキテクチャ関係の論文が発表されるトップレベルの学会で、専門的な研究者が主な出席者。最大でも400人程度の参加と見込んでいたのであるが、蓋を開けると600人を超える参加申し込みが殺到し、ホテルの会議場の収容人数を超え、その後の参加申し込みを停止するという事態になった。
日本での初の開催であるので、ついでに観光も兼ねて参加しようという人が多かったのに加えて、井上先生が強力に参加を勧誘し、韓国や中国から学生の参加が多かったのも、記録的な参加者数となった原因であるという。
論文採択率は21%の狭き門
Micro51では74件の論文発表と、3つの基調講演が行われた。投稿論文の総数は351件で、採択率は21%とかなり狭き門である。この投稿論文を71人の委員が査読し、採択論文を決定するのであるが、1人当たり21論文を査読するという大変な仕事であった。単純計算では、1つの投稿論文は4人程度の委員が査読していることになる。
10月20日と21日はチュートリアルなどで、基調講演や論文発表が行われる本会議は、10月22日から24日である。また、最終日は午後1時20分の閉会であるので、実質、2日半という日程である。この日程で74件の論文発表を行うため、2つのセッションが並行して行われるというスケジュールになっている。なお、基調講演と4件の最優秀論文候補の発表は、全員参加で並列セッションではない。
基調講演が示したコンピュータの新たな方向性
3件の基調講演の1件目は、理化学研究所(理研)RCCSの所長でポスト京コンピュータの開発を牽引する松岡聡氏で、松岡先生の学生時代のゲーム開発から産総研に設置されたABCIスパコンまでを振り返り、ポスト京開発について述べた。
ムーアの法則の成り立っていたメニーコアの恐竜の時代は終わりで、これからは新たなカンブリア紀に入る。Flopsではなく、Byte/sのメモリバンド幅が重要。問題の解き方を考え、それに合ったアクセラレータを開発すべきという指摘は重要であろう。
2日目の基調講演は、プリンストン大学のRuby Lee教授の「Security-aware Microarchitecture Design」と題する講演である。今年は、SpectreやMeltdownといった投機実行メカニズムの弱点を突く攻撃が現実的な脅威であることが明らかになり、セキュリティの重要性が再認識されたこともあり、セキュリティはホットトピックであった。Lee教授の基調講演に加えて、セキュリティIとIIの2つのセッションが設けられ、7件の論文が発表された。
3日目の基調講演はIntelのMike Davies氏による「Neuromorphic Principles for Efficient Self-Learning Microarchitecture」と題する講演であった。現在のディープラーニングなどでは、大量のデータを使って学習させる必要があるのであるが、「Loihi」という名前で発表されたこの研究では、スパイク型のニューロンを使い、効率よく少ないデータで学習ができていくという。
74件の論文を16セッションで発表
論文発表は、16のセッションがあり、初日の1-Aのアクセラレータのセッションでは5論文、1-Bのマイクロアーキテクチャのセッションも5論文、2-Aのマシンラーニングのアクセラレータのセッションで5論文、2-Bのコンパイラとプログラミング言語のセッションで5論文、3-Aのメモリシステム-Iで5論文、3-BのGPGPU/GPUのセッションで5論文、4-Aのセキュリティ-Iのセッションで4論文、4-Bのストレージシステムとテクノロジのセッションで4論文が発表された。
そして、2日目の5-Aのメモリシステム-IIで5論文、5-Bの測定、モデリング、シミュレーションのセッションで5論文、6-Aのニアメモリコンピューティングのセッションで5論文、6-Bの信頼性とフォールトトレランスのセッションで5論文が発表され、3日目の7の全員参加のベスト論文賞候補のセッションで4論文、8-Aの新規なアーキテクチャのセッションで3論文、8-Bのモバイルと組み込みアーキテクチャのセッションで3論文、9-Aのドメインスペシフィックなアーキテクチャのセッションで3論文、9-Bのセキュリティ-IIのセッションで3論文が発表された。
なお、AとBは同時開催であるので、1人では、どちらか片方だけしか発表を聞くことができなかった。