シリコンバレーのDe AnzaカレッジのFlint Centerで、8月19日から21日にかけて「Hot Chips 30」が開催される。1989年に第1回が開催されたHot Chipsは、今年は節目となる30回の開催を祝う。

8月19日はチュートリアルで、午前はブロックチェーン関係、午後はディープニューラルネット関係の講義が行われる。8月20日と21日が本会議で、11のセッションで、2つの基調講演と25の論文発表が行われる。

学界初デビューとなるGoogleの自社開発チップ

最初のセッション1は、モバイル/高電力効率プロセサのセッションで、SamsungのExynos-M3 CPU、GoogleのPixelビジュアルコア、UC BerkeleyのRISC-VのオープンソースのOut-of-OrderコアであるBROOMが発表される。

Exynos-M3は10nmプロセスで製造されるSamsungの最新のCPUコアであり、Galaxy 9スマートフォンに搭載されている。GoogleのPixel 2スマートフォンはQualcommのSnapdragon 835 SoCを使っているが、これに加えてGoogleが自社開発したPixel Visual Coreと呼ぶチップも搭載している。Pixel Visual Coreは、512個の演算器を持つIPUを8個搭載する高並列の処理チップであるが、これまで、その詳細についての学会発表は無く、これが学会初デビューである。

次世代メインストリームGPUを発表するNVIDIA

セッション2はグラフィックスソリューションのセッションで、NVIDIAの次世代メインストリームGPUが発表される。このGPUはTuringと呼ばれる新アーキテクチャになるという噂が流れているがその中身は分からず、その実態がこの発表で明らかになる。開発エンジニアではなく、GPU ASIC Engineering担当VPのStuart Oberman氏が発表することになっており、NVIDIAとしてもこの発表には力を入れているようである。

セッション2の2番目の発表は、IntelのThin and Lightモバイル向けの高性能グラフィックソリューションの発表、3番目はAMDのRaven Ridge APUの発表である。

セッション3では、Spectre/Meltdownとそれがチップ設計に与える影響と題するパネル形式の基調講演とQ&Aが行われる。投機実行を行うマイクロアーキテクチャのセキュリティホールを突くSpectreやMeltdownなどの攻撃をどのように防ぐのか興味深いセッションである。

セッション4は、IoT/Edgeコンピューティングのセッションで、IBMとHarvard大学の共著でSMIVと呼ぶDNNアクセラレータ、MITのNavionと呼ぶロボット用の視覚と慣性を使った距離計のアクセラレータ、NVIDIAの自動運転用AIコンピュータであるXavierの発表が行われる。Xavierの存在は、すでにGTCなどで発表されているが、その詳細は明らかにされておらず、これも期待される発表である。

セッション5はセキュリティのセッションで、MicrosoftのAzureのハードウェアセキュリティプラットフォームの発表とTitanと呼ぶGoogleのRoot-of-Trustチップが発表される。

次世代コンピューティングの鍵を握るセッション群

2日目の最初となるセッション6はスイッチファブリックとFPGAアーキテクチャのセッションで、NVIDIAのNVLinkのスイッチチップが発表される。6リンク並列にして、16個のVolta GPUチップ間を300GB/sという高バンド幅で繋ぐNVLink2スイッチはDGX-2の高性能実現のカギとなるLSIで、注目される発表である。このセッションでは、Barefoot NetworksのProgramable Forwarding PlanesとXilinxのProject Everestと呼ばれるHW/SWプログラマブルエンジンも発表される。

セッション7ではNanteroのカーボンナノチューブメモリと、Mythicという会社のFlashメモリを用いてアナログ的に推論計算を行うチップが発表される。

セッション8は「Adaptable Intelligence:the Next Computing Era」と題するXilinxのVictor Peng CEOの基調講演である。

セッション9は、マシンラーニング1、セッション10はマシンラーニング2と題するセッションである。マシンラーニング1では、Armの第1世代MLプロセサ、NVIDIAのディープラーニングアクセラレータ、Tachyumという会社のデータセンタでのAI処理向けのTachyum Cloud Chipの発表が行われる。

マシンラーニング2では、中国のDeephiと清華大学、MITの共著のディープラーニングアクセラレータの進歩をまとめる発表とXilinxのTensorプロセサの発表が行われる。

最後を締めるのはIntelの次世代Xeon

そして、Hot Chips 30の最後を締めくくるセッション11は、恒例のサーバプロセサのセッションである。このセッションでの最初の発表はIBMのPOWER9である。POWER9のアーキテクチャは2016年のHot Chips 27で発表されているので、今回は性能実測結果やハードウェアの実装などに重点をおいた発表になるのではないかと思われる。

2番目の発表は富士通のPost-Kコンピュータの発表である。富士通は、5月17~18日に開催した富士通フォーラムでPost-Kプロセサの展示を行っており、すでにPost-Kのプロトタイプが動いていると思われる。したがって、マイクロアーキテクチャだけでなく、実測に基づくデータの発表が期待される。3番目の発表はNECのSX-Aurora TSUBASAスパコンの発表である。

そして大トリの発表は、IntelのSkylakeの次世代となるCascade Lakeという開発コードネームのXeon Scalable Processorの発表である。

Hot Chipsは各社の注目の新製品に関する発表が多く、科学技術論文の発表が中心の他の学会とは趣が異なる。しかし、各社の新製品の発表では技術的な中身が薄くなっていく傾向にあり、Hot Chipsの発表は重要な情報源であり、貴重である。