伊仏合弁の大手半導体メーカーSTMicroelectronicsは3月6日、同社の社長 兼 CEOのCarlo Bozotti(カルロ・ボゾッティ)氏を中心とする経営陣による2017年の業績ならびに2018年の戦略に関する説明会を開催した。

既報のとおり、STMicroは長年にわたってCEOを務めてきたCarlo Bozotti氏が、2018年の定時株主総会の終了を持って退任することをすでに発表しており、説明会には現 最高業務責任者(COO) 兼 副CEOで、次期社長 兼 CEOに内定しているJean-Marc Chery(ジャンマーク・シェリー)氏らも出席した。

  • STMicroelectronicsの社長 兼 CEOのCarlo Bozotti氏とCOO 兼 副CEOのJean-Marc Chery

    左がSTMicroelectronicsの社長 兼 CEOのCarlo Bozotti(カルロ・ボゾッティ)氏、右がCOO 兼 副CEOで、2018年中に新たに社長 兼 CEOに就任する予定のJean-Marc Chery(ジャンマーク・シェリー)氏

過去最高クラスの業績を達成した2017年

STMicroelectronicsの2017年通期業績は、売上高が前年比19.7%増の83億5000万ドル、営業利益率11.9%、粗利益率39.2%、純利益も同386%増の8億200万ドルとなり、ボゾッティCEO曰く、「STにとっての最高の年の1つとなった」というほどの好調さを見せた。

  • STMicroelectronicsの2017年通期業績の概要

    STMicroelectronicsの2017年通期業績の概要 (出典:STMicroelectronics配布資料)

同社の半導体ビジネスがフォーカスしている領域は、「スマートインダストリ」、「スマートホーム&シティ」、「スマートシングス」、「スマートドライビング」の4つで、事業規模の拡大の背景には、市場のリーダーシップを取れる製品が複数存在していることが大きいと同氏は強調する。例えば自動車では、エレクトロニクス化(電動化)とデジタル化により、半導体の搭載量が年々増加しており、その伸びは車両の増加率よりも高く、それに併せて同社の製品の搭載が進んでいるという。「高級車でみれば、1台のクルマあたり1000のコンポーネントに何らかのST製品が採用されている」(同)とし、特に近年は、2005年よりパートナーシップを組んでいるMobileyeとの関係性を強調した。

現在、MobileyeはSTの提供するFD-SOI 28nmプロセスを用いて、第4世代品「EyeQ4」の提供を行っている。また、次世代品で2018年上期中にサンプル出荷の開始が予定されている「EyeQ5」は、10nm以下のFinFETプロセスが採用されるが、STとのパートナーシップに変更はないほか、さらにその後の第6世代品「EyeQ6」の開発もすでに協力して進められているという。

2018年に10億ドル程度の投資を計画

現在、STMicroelectronicsが提供している製品、技術は通常のCMOSプロセスはもとより、FD-SOI、アナログ/RF CMOS、BCD(Bipolar-CMOS-Power DMOS)、eNVM(組み込み型不揮発性メモリ)CMOS、MEMS、イメージセンサ、SiC、GaN、IGBTなど非常に幅広いものとなっている。

  • STMicroelectronicsが有するさまざまな技術

    STMicroelectronicsが有するさまざまな技術。これらが他社との差別化要因となる (出典:STMicroelectronics配布資料)

こうした技術展開について、同社は「顧客に対して、差別化とイノベーションにアクセスしてもらう」(シェリー氏)ためと説明しており、そこで重視されるのは、「テクノロジー企業として、長期にわたって市場のリーダーであったり、長期的にコミットしてきた分野」であり、現在はSiCやイメージセンサといった分野への投資を強化しているとする。「すでに6インチ(150mm)のSiCウェハの量産ラインをイタリア・カターニヤに設置しており、高まる需要に柔軟に対応することを可能とした」(同)とする。

  • STMicroelectronicsのSiCウェハ

    STMicroelectronicsのSiCウェハ (オートモーティブワールドの同社ブースにて編集部撮影)

そんな同社は、2018年に総額10~11億ドル程度の研究開発ならびに設備投資計画を立てている。例えば、イタリア・アグラテに次世代のBCDプロセスに対応した12インチ(300mm)ウェハのパイロットラインを立ち上げることを計画しているという。

  • STMicroelectronicsの2018年の研究開発および設備投資計画

    STMicroelectronicsの2018年の研究開発および設備投資計画 (出典:STMicroelectronics配布資料)

また、事業の方針としては、「市場の成長に寄与している部分にフォーカスしていく」とし、工場の自動化といった「スマートインダストリ」、家電や監視、オートメーションといった「スマートホーム/スマートシティ」、スマートフォンのほか、さまざまなモノが接続される「スマートシングス」、自動車のADAS/自動運転といった「スマートドライビング」の4つの市場を軸に、成長している分野で優位性を発揮していくことを目指すとした。

さらに、「2018年における我々の目的はシンプルかつ直線的なものだ。これまで達成してきた経験を生かして、持続可能な収益性を伴う成長を達成していくことで、2017年に続き、重要なステップを踏んでいくことができると思っている」との見通しを示しており、そうした方針において、日本は重要な戦略地域になるとした。

日本地域のみを見た場合、2017年はすべての領域で、全社平均よりも高い成長率を達成。日本市場全体としては全社の成長率を上回る33%を達成しているが、スマートインダストリ分野を中心に、日本ではさらに浸透できる余地があるほか、自動車でもIoT分野でもシェア拡大の余地があるとしており、今後も成長を続けることが可能であり、2018年も2桁の成長を達成したいとしていた。

なお、シェリー氏は、「外部とのM&Aを含めたアライアンスなども方法論としてはあるが、まずは社内の力を活用して成長を実現することが基本路線である」とし、それを実現するのが最高のエンジニアとIPであることを強調した。

STMicroelectronicsのCEO交代は2005年にボゾッティ氏が就任して以来、13年ぶりの出来事となる。このタイミングでの交代となるのは、ボゾッティ氏がSTMicroelectronicsの前身であるSGS-ATESに入社して41年ほどが経過していることもあるが、業績が好調なうちにバトンを渡すことで、シェリー氏の負担を軽減するという思惑もあるだろう。そんな新CEOに就任予定のシェリー氏だが、「自社の強み弱みを把握して、成長を探りつつ、市場と応用分野のダイナミクスをとらえて成長を達成していきたい」と自身のCEOとしての抱負を述べていた。