独立系半導体ナノエレクトロニクス研究機関であるベルギーimeは、去る5月24~25日に、ベルギー・ブリュッセルにて年次研究計画発表会「imec Technology Forum(ITF) Brussels 2016」を開催した。世界中から1000名を超える聴衆が詰めかけた同発表会の今回のメインテーマは「Daring to take a different view - Nanotechnology in the Hot Seat(人と違った見方をする勇気 - 注目浴びるナノテクノロジー)」であり、冒頭にimecの社長兼CEOであるLuc Van den hove氏が「IC innovation - the heartbeat of yesterday,today,tomorrow」と題した基調講演を行った。

図1 ITF Brussels 2016の会場風景

違う見方をする企業がイノベーションを起こす

図2 imec社長兼CEOのLuc Van den hove氏 (出所:imec)

Van den hove社長は「今日、私たちはデジタル時代の混乱の2010年代のど真中にいる。勇気を持って多くの人々や企業と違う見方をする企業のおかげで目には見えない革新が起きている」と前置きして、「世界で一番タクシー配車サービスをしている会社はタクシーを一台も持ってはいない。世界で一番多くの部屋を賃貸している会社は部屋を1つも持っていない。世界で一番大きなメディア・コンテンツ企業は、自らはコンテンツをまったく創らない。これらの企業は、皆さんも御承知のUber、Airbnb、そしてFacebookである」と異なる見方をするいくつかの企業を紹介した。

ムーアの法則を終わらせないための異なる視点という選択枝

「私たちはいまIoTの前夜にいる。すべての産業はIoTでイノベーションを起こすだろう。そして、それは、従来同様にナノエレクトロニクスによってもたらされる。とりわけICのイノベ―ションに依存している」。いままで、ICのイノベーションは、50年余り前にゴードン・ムーア氏により予測されたICの高集積化(ムーアの法則)によってもたらされたものだが、現在、多くの人の疑問は、ムーアの法則が今後も続くのか否かという点にある。

この疑問について同氏は、「ムーアの法則は、これまでの進化を支えてきたプロセスの微細化のみに依存するのではなく、破壊的なイノベ―ションを可能にする別の形をとることにより継続するだろう。産業発展の源泉であるこの法則をなんとしても継続させる必要がある」と、ムーアの法則の重要性を強調。「半導体プロセスの微細化は、トランジスタの3次元化や横型ナノワイヤ、縦型ナノワイヤなどを用いることで3nmまではいくだろう。仮にそれ以上は無理だとしても3nmまでは見えてきた(図3)。さらには、MPUとメモリなど異種デバイスの集積(heterogeneous integration)が新たな道を拓き、磁気やスピンなどを用いたポストCMOSデバイスがさらに別の道を拓こうとしている。このようにデバイス技術の選択肢は多岐にわたろうとしている」と、imecとしては今後もしばらくはムーアの法則が継続していく見込みであることを披露した。

ムーアの法則を継続させるためのもう1つの道

プロセス微細化の鍵をにぎるのが、露光装置(リソグラフィ)だ。それについて同氏は「EUVが唯一の解であることを確信している。ここ数カ月のEUVの進歩を見ると、、必ず半導体の製造に導入される時期が近づいていると感じる」と語っている。また同氏は、「ムーアの法則を継続させるための方法には、さまざまなデバイス技術の選択以外にも、システムアーキテクチャのイノベーションといった方法もある」とする。具体的には、従来のノイマン型コンピュ―ティングとはまったく別の非ノイマン型である脳神経細胞を模したコンピューティングであり、その先には量子コンピュ―ティングがある。imecは最近、シリコン微細化を応用した量子コンピューティングの研究を始めたことを公表している。デバイス設計技術とシステム技術をともに最適化することで、トランジスタ当たりのコストを最小化する集積化をさらに加速できるのではという見方だ(図4)。

図3 微細化を3nmまで進歩させる新構造トランジスタ (出所:imec)

図4 デバイス設計技術とシステム技術をともに最適化した集積度向上による単価当たりのトランジスタ数の増加 (出所:imec)